赤はピンクに

 2025年6月18日に“ビレッジマンズストア”が、バンドキャリア20周年を記念した初のベストアルバム『re:Rec BEST 「遊撃」』をリリースしました。ほとんどの楽曲を現メンバー5人で演奏・レコーディングした再録ベストアルバム。Disc1、Disc2ごとにテーマがあり、何かとの繋がりを歌ったものがDisc1 遊 、“攻撃的”なのがDisc2 撃 となっております。
 
 さて、今日のうたではそんな“ビレッジマンズストア”の水野ギイによる歌詞エッセイを3週連続でお届け。第1弾は収録曲「PINK」にまつわるお話です。かつて、いつも何かに対する怒りを燃やしていた自身。形容するなら“真っ赤”だった在り方が、少しずつ変わっていった理由は…。ぜひ歌詞と併せて、エッセイをお楽しみください。



10年前、おれは怒っていた。何に対してかは覚えていない。とにかく毎日火をくべ、怒りを燃やしていた。
 
不条理、嫉妬、退屈、好きじゃない音楽がどんどん売れていくこと、テレビで見た政治のこと、勢いでバイトをやめてしまった自分のこと、友達や女の子を大切にできないのをそんな自分の生活のせいにしたこと。
おおよそこんな風なものだった。探せばきっとあと150項目以上はあるが、列挙するに値しないものだらけだろう。
 
自分を形容するとまさしく猩猩緋色。「真っ赤」であった(ステージ衣装の話ではなく)。
とはいえ、その感情を矯正したいかと言われればそうではなく、寧ろ無理矢理自分を特別だと思い込むために自ら選び、そうあろうとした。
「真っ赤」であることはバンドマンとして不可欠な要素である、と考えていた。
だって雑誌で見るロックスターは、いつもなにかに怒っているんだもん。おれもそうしなきゃいけないんだ。
 
『刃の上を君と行く』発売から1年以上経ち、いよいよ次の製作を終わらせなければならない。
この尖らせたエネルギーを発散させる時だ。
 
レーベルの人、曲急かしてきやがってちくしょう。でも怖そうだったけど力になってくれたな。ちくしょう。そういえばCD作るまでに色んな人と話したな。幼馴染含むメンバーはたまにむかつくけど結構いいやつらだ。バイトも辞めちゃったけど、なんだか気持ちよく送り出してくれた。女の子はいつもニコニコして、がんばれ大丈夫って言ってくれた。駄目な日は呆れながらメシとか作ってくれた。ちくしょう。
 
おかしいな、おれは誰よりも「真っ赤」になりたかったけど、そんな姿になってもこの人たちは横を歩いてくれるのだろうか。
おれは本当に「その格好良い」になりたいのだろうか。いやー、困った。全然なりたくないかもな…。
「真っ赤」じゃなきゃ駄目ならばきっともうおれには向いていない、この人たちに優しくしたい。
 
新しい憧れができてしまった。
これからおれ達はどうなる。きっと望んで薄まっていく。赤はピンクに、生々しくて自然で生活の色。混ぜようによっちゃ、きっと少しだけ格好悪い。ひょっとしたら学生街の下世話なネオン管みたいになっちまうかもな。
まだ分からないけれど、その出来上がった色を何年もかけて少しずつ愛していきたいと思った。
 
ミニアルバム『正しい夜明け』最後に出来上がった曲「PINK」

<“ビレッジマンズストア・水野ギイ>



◆紹介曲「PINK
作詞:水野ギイ
作曲:水野ギイ
 
◆ベストアルバム『re:Rec BEST 「遊撃」』
2025年6月18日発売
 
<収録曲>
【CD Disc1 遊】
01. WENDY(20th ver.)
02. みちづれ(20th ver.)
03. 1P
04. 車上A・RA・SHI(20th ver.)
05. アディー・ハディー(20th ver.)
06. アダルト(20th ver.)
07. TV MUSIC SHOW
08. セブン(20th ver.)
09. ロマンティックに火をつけて(20th ver.)
10. きみがいれば
11. People Get Lady(20th ver.)
12. LOVE SONGS(20th ver.)
13. 眠れぬ夜は自分のせい(20th ver.)
 
【CD Disc2 撃】
01. 夢の中ではない(20th ver.)
02. 逃げてくあの娘にゃ聴こえない(20th ver.)
03. ビレッジマンズ(20th ver.)
04. 黙らせないで(20th ver.)
05. 御礼参り(20th ver.)
06. 猫騙し人攫い(20th ver.)
07. Love Me Fender(20th ver.)
08. 変身(20th ver.)
09. サーチライト(20th ver.)
10. 墜落、若しくはラッキーストライク(20th ver.)
11. 正しい夜明け(20th ver.)
12. PINK(20th ver.)