あの子と出会う前の僕に、聴かせたい曲を死ぬ気で書こう。

 2021年6月30日に“Omoinotake”が新曲「プリクエル」をリリースしました。小説投稿サイト・monogatary.comとのコラボによって制作されたこの曲。“告白”をテーマにした小説「袖振り合うは下北沢」からインスピレーションを得て、待ち合わせの場所へと向かう主人公の不安や期待を表現した1曲となっております。

  さて、今日のうたコラムではそんな最新作を放った“Omoinotake”の福島智朗/エモアキ(Ba&Cho)による歌詞エッセイをお届け!今作の作詞を手掛けた彼。新曲「プリクエル」に通ずるお話を綴っていただきました。人生で一番深い恋の中にいた時のこと。数えきれないほどの後悔が記憶に残っているからこそ、生まれたこの楽曲。是非、歌詞と併せてエッセイをお楽しみください…!

~歌詞エッセイ:「プリクエル」~

人生で一番深い恋の中にいた時のことを、
今でも鮮明に覚えている。

累計できっと100回くらいの告白をしたけれど、
その子が頷いてくれたことは、一度もなかった。
もう10年くらい前の話。



飲み会で知り合って、酔い潰れてしまったその子を
家まで送ったことがきっかけで、
僕はその家に入り浸るようになった。
灰皿の上で山のようになった吸殻や、
飲みかけの缶チューハイが何本も
そのままになっていた部屋は、
あの頃の僕の部屋と同じ匂いがした。



ほとんど毎日の朝を一緒に目覚めて、
その子は仕事へ、僕はそのまま学校に行った。



当然のように夜はその子の部屋に帰って、
一緒に映画を見ながら煙草を吸って、
同じ布団で目を閉じた。



そんな生活が一ヶ月続いたころ、
僕はとうとう告白をした。

きっと僕と同じ気持ちで
いてくれてるだろうって、思い込んでいた。



「君のことは好きだけど、そんなんじゃない」

予想外の返事に酷く戸惑った僕は、
説得にも似た言葉で言い寄ったけれど、
答えは変わらなかった。



その日以降も、以前と変わらない生活が続いた。

ふられたはずの僕が傍にいることに、
その子は何とも思っていない様子だった。



当然、諦めることなんてできなかった僕は、
あの日以降も何度も告白をしては玉砕した。

隙を見ては告白を繰り返した。
多い時で一日に3回くらい告ってた。



卑怯な僕は、判断力の鈍ってる朝方や、
その子が酔った時などにも告白した。

それでも、一向に答えは変わらなかった。
ほとんど挨拶みたいになってしまった僕の告白は、
いつしか何の価値も持たないものになってしまった。



「こんなふうに出会ってなかったら、きっと違ってたかも」

何度目かの玉砕の際、
彼女が言った言葉を、
今でもずっと覚えている。



2021年の僕は自分の部屋で、
「プリクエル」の歌詞を書きながら、
いったい何本目になるのかわからない烟草を吸い、
書けない歌詞に頭を抱えていた。



山のようになった灰皿を見つめて、
ふと僕はあの部屋での日々のことを、
あのたくさんの告白のことを思い出した。



君ともっとちゃんと出会えてたらよかった。
部屋以外の場所で待ち合わせがしたかった。
バカみたいに何度も告白なんてするべきじゃなかった。



だけど僕はどうしたってあの時、
君の恋人になりたかった。



書きかけの歌詞を読み返していたら、
数えきれないほどの後悔が、
浮かんでは胸を絞めたけれど、
30分もすれば痛みはどこかへ去っていった。
大人になることはこれだから嫌いじゃない。



「あの子と出会う前の僕に、聴かせたい曲を死ぬ気で書こう」

いい歳こいて半泣きで決意を固めた、
2021年の僕は背筋を伸ばしてPCに向かい直した。



憧れと後悔は表裏一体だと思う。
後悔が深ければ深いほど、
憧れはあきれるほどに綺麗になっていく。



現実の僕と違って
「プリクエル」の「僕」のダメなところが、
いつまでも君にバレませんように。



そして何よりも、
100回くらい告白して全部ダメだった僕と違って、
「僕」の告白に君が、
いつもの笑みで頷いてくれますように。

<Omoinotake・福島智朗/エモアキ>

◆紹介曲「プリクエル
作詞:福島智朗
作曲:藤井怜央