2024年5月5日に“Omoinotake”が新曲「蕾」をリリースしました。同曲は、TVアニメ『僕のヒーローアカデミア』第7期エンディングテーマ。どれだけ相手を想ったとしても、決して一つにはなれない心と心。それでも決して「わかり合うことを諦めない」という強い願いを、目まぐるしく変わるスピード感のあるビート、そして体の内側から漲ってくるエネルギーのようなサウンドに乗せて、力強く歌った楽曲に仕上がっております。
さて、今日のうたではそんな“Omoinotake”の福島智朗による歌詞エッセイをお届け。綴っていただいたのは、新曲「蕾」にまつわるお話です。歌詞を書こうとしたとき、頭のなかに浮かんだひととは。そして歌詞を書き終えて起こした、ひとつの変化とは…。「わかり合うことを諦めてしまった」あなたへ。この歌詞とエッセイを受け取ってください。
ページをめくる。夢中になって、めくる。
時折、指を止めて考えこんだり、涙ぐんだりする。
そのページに付箋を貼って、メモを取る。先へ進む。
それだけを繰り返す。
朝はあっという間に来る。少し寝て、まためくる。
『僕のヒーローアカデミア』
読み終えた頃、指先はカラカラに乾いていて、涙で目は重く腫れていた。
読後の余韻が冷めてしまわないうちに、歌詞を書こうと、画面の前に向かう。
頭の中には、これまでの人生の中で、わかり合えないままいつしか、
会えなくなってしまった、何人かの顔が、浮かんでいた。
人生で初めての絶縁は、大親友とだった。
ほんの些細なことがきっかけで、10年以上の関係性は、消えてしまった。
今日知り合った人と、居酒屋で盛り上がれることだってあるのに、
一生の友達のはずだった人と、もう笑い合えないなんて、
人間は、人生は、どうしてこんなに歪なんだろうと、考える。
別れてしまった、彼女だってそうだ。
あんなに傍にいたのに、離れてしまった瞬間、
世界中でもっとも遠い人に、なってしまう。
近いから、すれ違うのか。もともと、違っていたのか。
違いが亀裂を生む。今考えれば、違ってるから愛しいと、
僕にないものがあるから愛しいと、想えたはずだったのに。
そんなふうに僕は、これまでの人生で何度か、
わかり合うことを諦めた。結果、埋まらない、埋めたふりをした、
寂しさを、ふと思い出しては、苦しくなってしまう。
「久しぶり、もういいじゃんかね。たまには遊ぼう」
「蕾」を書き終えたあと、いつかの親友に連絡をした。
すぐに返事はきた。むかしみたいに、やり取りがはじまった。
永遠に彼女できないって嘆いてたくせに、いつの間にか結婚してた。
僕らの新曲も、いつも聴いてくれてるみたいで、嬉しかった。
今度会う、約束をした。
もうわかり合えないと、勝手に決め込んでしまっていた。
きっとそれぞれの胸の中に、そんな声があって、結びつき方を忘れた。
たったそれだけのことだったと、知った。
単行本に貼った、付箋のページを見返す。
書く前と、書き終えた後じゃ、感じ方が、ほとんど違う。
決めつけていた価値観が解けていく。それがとても、愛しい。
「わかり合うことを諦めてしまった」
いつかの僕へ渡したい。書けたのは、そんな詩だった。
<Omoinotake・福島智朗>
<Omoinotake・福島智朗>