いつかの僕へ。29歳の僕が感じた想いは、こんな形だったよ。

 2022年4月13日に“Omoinotake”がDigital Single「心音」をリリースしました。今作は、現在好評公開中の映画『チェリまほ THE MOVIE』の主題歌に起用。大切なひとと心を通わせ合う過程で胸の中に産まれていった、穏やかに熱を帯びていく感情を綴ったラブソングとなっており、映画の世界観とリンクした歌詞がファンの間でも話題に…!
 
 さて、今日のうたコラムでは、そんな最新作を放った“Omoinotake”の福島智朗による歌詞エッセイをお届け!綴っていただいたのは、新曲「心音」にまつわるお話です。人生のそばにあった、ある小説の一文。ずっと信じ込んできたこと。そして、『チェリまほ THE MOVIE』の主題歌を書き下ろし、紡ぐことができたもの…。歌詞と併せて、このエッセイを受け取ってください。



「おさななじみになりたかった。
きがついたらそばにいて、そばにいるとわかったときから
ずっとはなれずにいたかった。」
(引用:重松 清『カシオペアの丘で』より)
 
好きな小説の一文。
中学生の頃に初めて読んで、ボロボロと泣いたフレーズ。
 
あれから10年以上経った。
誰かにあげてしまったり、読み過ぎて文字が読めなくなったり、
ことあるごとに買い直した同じタイトルの文庫本は、もう何代目になるのかわからないけれど、
ずっと僕の人生のそばにいて、ほとんど身体の一部になってしまった。
 
誰かと恋に落ちるたびに、胸の中に刻まれたこのフレーズが浮かぶ。
出会う前の君さえも、欲しいと思ってしまう。
 
こんな重たいこと伝えたら、君はどこかへ去ってしまうんじゃないかって、
そんなことを考えて、言い出せないまま、恥ずかしくって、面と向かって
愛を伝えられない僕の恋は、いつしか終わってしまう。
 
出会ってからの時間さえ、添い遂げることができなかった僕が、
過去の君まで知りたかったなんて思うことは、おこがましいことだと思う。
 
それでも恋に落ちるたび、懲りない僕の頭の中には、同じ言葉が浮かぶ。
僕は忘れる生き物だ。それと同時に忘れられない後悔や思い出に、
きっと死ぬまで、しがみついて生きる、そんな生き物だ。
 
終わってしまった恋の歌は、自己満足の歌だ。
時間が解決してくれた感情や思い出を、振り返って書く。
 
あの時、言葉にできなかった感情を、悶々と部屋の中で言葉にする。
届くのかもわからない、あの時の君に向けて歌にする。
 
そんな非合理で、格好悪い言葉と歌が、僕は大好きだ。
僕の本質は、本当の言葉は、後悔からしか産まれえないと、ずっと信じ込んでいた。
 
そんな僕が、『チェリまほ THE MOVIE』の主題歌のお話をいただいた。
自分で作った殻に閉じこもっていた僕が僕を、引きずり上げる機会だと思った。
 
もう10年以上、僕のそばにいてくれた、あの言葉を想う。
離れ離れで産まれた後悔はもういい、ただそこに、ほんのひとさじの皮肉を込めた。
 
バラバラで産まれた 僕らだから
残りの時間くらい 傍にいて欲しい
 
最後まで君のそばに寄り添って、
もっと早く出会えてたらって、そんな後悔も、足りなかった時間も
来世でも君と巡り合って、恋に落ちて、埋め合わせしようって、
柄にもなく、過去にすがる言葉ではなく、未来への言葉が紡げたんだ。
 
きっと一生僕は、あの小説を握りしめて生きていくと思う。
あの大切な一文は、歳を重ねるごとに意味が移ろいで行く。
 
明日の僕は、来年の僕は、10年後の僕は、
いったいどんなふうに、その言葉を感じるんだろう。
 
いつかの僕へ。29歳の僕が感じた想いは、こんな形だったよ。
タイムカプセルじゃないけど、いつだってこの時に帰ってきて、
「青いな~」って笑ってもいいよ。
 
今の僕が、心の底から信じた言葉なんだ。
本当だよ。感じ方も、変わっててもいいよ。
だから一生、嘘だけは書かないでいて。

<Omoinotake・福島智朗>



◆紹介曲「心音
作詞:福島智朗
作曲:藤井怜央