大嫌いだったあの町を、大好きにさせてくれてありがとう。

 2022年12月21日に“Omoinotake”がEP『Dear DECADE,』をリリースしました。結成10周年のメモリアルイヤーに、これまでの険しくも愛おしい10年に感謝を、これからの10年への決意と覚悟を込めて紡ぐ今作。ライヴでは何度も披露してきたインディーズ時代の人気曲「雨と喪失」リアレンジバージョン、ファンが音源化を待ち望んでいた楽曲「この夜のロマンス」、TVCMソングで話題となりライヴでも人気曲の「彼方」、monogatary.comとのコラボ楽曲である「プリクエル」、そして新曲「トロイメライ」「カエデ」が収録!
 
 さて、今日のうたコラムでは、そんな最新作を放った“Omoinotake”の福島智朗による歌詞エッセイをお届け。今作の収録曲「雨と喪失」にまつわるお話です。14年前、16歳の頃に生まれたこの曲。当時まで記憶を遡り、自身の心に映っていた景色や感情の移り変わりを鮮明に綴っていただきました。そして、今の想いは…。ぜひ歌詞と併せて、エッセイを受け取ってください。



タイムマシーンに乗ったような感覚に陥った。
2022年の東京のレコーディングスタジオに、懐かしいメロディが響いた。
 
「あの日からもう こんなにもの月日が経ったね」
そんな歌い出しから曲は始まった。
ブースで歌っているのは、僕の中学の同級生だ。
 
16歳の頃、きっとこの人生で1番の大失恋をした僕が、
泣きじゃくりながら、弾けないアコギを弾いて作ったメロディ。
 
隣を見れば、僕の高校時代からのバンドメンバーがいる。
あの頃よりずいぶんと大人びた顔をして、歌声に耳を傾けてる。
 
懐かしいメロディのせいか、ふいに昔のあだ名で呼びそうになる。
遠い過去と現在の境界線が曖昧になる。
気づけば僕らは30歳になっていた。
 
目を閉じる。
記憶は14年前に遡る。
 
埃くさい部屋、窓の外は雨ばかりの、灰色の町。
ずっと、抜け出したいと、そればかりを思っていた。
 
そんな僕に彼女ができた。
家の距離は徒歩10秒。幼なじみだった。
掌を返したように、目に映る全ての景色が変わった。
 
遊ぶ場所一つないと嘆いた、真っ暗な深夜の田舎町は、
親が寝た隙に家を抜け出した二人が、星を見ながら散歩するのに最適だった。
 
静けさが耳に痛いくらい、しんとしたこの町の夜は、
彼女の小さな声をちゃんと聴くために、あると思えた。
 
僕の部屋で二人でいる時、窓の外で降り出した雨に感謝した。
徒歩10秒の家まで帰れないくらい、もっと強く降って欲しいと、空に祈った。
 
大嫌いだったこの町のことを、愛せるようになった頃、
僕は大好きだった彼女に、別れを告げられた。
 
数ヶ月泣きじゃくった。
飯が喉を通らないってこういうことかと知った。
情けないメールを、きっと何通も送った。
僕はずぶ濡れのボロ雑巾のようだった。
 
窓の外はずっと雨が降っていた。
君が傍にいない雨は、ただただ、哀しいだけだった。
 
こんなに近くにいるのに、もう二度と会えない関係は、
どちらかが死んでしまうことと、ほとんど同じだと思った。
 
どうやらもう、彼女は僕のところに戻ってこないみたいだ。
きっと最初から決まっていたことを、冷酷な時間の流れが教えてくれた。
 
止まない雨のように降り続く感情を、歌にしようと思った。
弾けないアコギを取り出す、君のことを考える。
枯れるほど泣いたはずなのに、メロディと一緒に、涙が溢れ出す。
 
精一杯の背伸びをした言葉で、曲は埋まった。
「またいつかどこかで」なんて言ったら、悔しかったから。
君はもういないと、僕が僕自身に言い聞かせる、言葉を紡いだ。
 
タイムマシーンに乗ったような感覚に陥った。
2022年のライブハウス。
レコーディングを終えた僕らは、ツアーの真っ最中だ。
 
「あの日からもう こんなにもの月日が経ったね」
いつしか僕は30歳になっていた。
14年前の大きく背伸びした僕が書いた言葉が、
自分で言うのも何だけど、なんだか最近、似合うようになった気がする。
 
大嫌いだったあの町を、大好きにさせてくれてありがとう。
あれ以来、雨が嫌いだけど好きだ。
相変わらず曖昧だって、君は笑うかな。
 
痛みが歌になった瞬間の、あの感情をくれてありがとう。
きっとこの感情が無ければ、僕は今バンドやってない気がする。
 
フラッシュバックする記憶を噛みしめながら、ベースを弾く。
泣いているお客さんが見える。つられて僕も泣いてしまいそうになる。
 
あの日の僕の痛みが時間を越えて、いま誰かの痛みに寄り添えてるのなら、
それ以上の幸せはないと思った。温かい涙が、頬を伝って止まない。
 
止まない涙のような雨は 
僕を強く抱き締めるようで
 
いつかの背伸びした僕が、今の僕へ歌う。
あぁそういうことだったんかと、
僕はライブハウスの中で、あの日の雨に包まれていた。

<Omoinotake・福島智朗>



◆紹介曲「雨と喪失
作詞:福島智朗
作曲:福島智朗

◆EP『Dear DECADE,』
2022年12月21日発売
 
<収録曲>
1.雨と喪失
2.彼方
3.トロイメライ 
4.プリクエル
5.この夜のロマンス 
6.カエデ