何も気にせず考えずふたりだけになれたらよかったのに。

 2023年9月13日に“reGretGirl”がDigital Single「ワールド」をリリースしました。歌詞に綴られているのは<「ふたりだけになれる世界がほしい」 僕もずっとずっと思っていた>という想い…。あの頃の“盲目の恋”の別れを歌ったミドルナンバーとなっております。
 
 さて、今日のうたコラムではそんな最新作を放った“reGretGirl”の平部雅洋による歌詞エッセイをお届け! 綴っていただいたのは、新曲ワールドにまつわるお話です。彼女が居なくなって数週間、少しずつ狂い始めた生活の歯車。思い返してみると、手を離した理由は何だったのか…。今回は音声版もございます。ぜひ本人の朗読でもエッセイをお楽しみください。


平部雅洋の朗読を聞く

この度、我々reGretGirlは11月1日に『告白e.p.』をリリースする事を発表しました。
それに伴い、そのe.p.から一曲「ワールド」を9月13日に先行配信リリースをさせていただきました。
今回、この今日のうたコラムではその「ワールド」に纏わる文章を掲載させていただきます。
是非ご一読ください。
 
 
このマンションの燃えるゴミの日は火曜日と金曜日。週に二回もチャンスがあるのに、今週は両日とも寝坊をしてゴミを出せなかった。金曜日。目が覚めると、ゴミ収集車から流れてくる、どこか切ない安価なメロディが遠ざかってゆくのが聞こえた。大きなため息をついて、ベッドから起きトイレに入ると、トイレットペーパーのストックがなくなっていた。あれ? いつも使ってたペーパーはどこのメーカーのやつだっけ?
 
彼女が居なくなって数週間。生活の歯車が少しずつ狂い始めた。
 
冷蔵庫を開けると買い溜めておいたはずの缶ビールは残り二本。ペットボトルのお茶はコップに半分ほどの微妙な量で残っていて、冷凍庫ではカチカチに凍った生ゴミが苦しそうに角で息を潜めている。「生ゴミはその日のうちに袋に入れて、ほんでジップロックに入れて臭う前に凍らすのが一番衛生的やねん」これは彼女の受け売りで、僕にもその習慣がついた。
 
元々この部屋は僕が借りた部屋だ。ひとりになろうと大した変化はないだろうと高を括っていたが、ただ強がっていただけのようだ。
 
 
最後の決め手はなんだっけ。
共通点が多くて付き合い始めたふたりの暮らしには、小さな違いが募った。
「来週の休みは少し遠くに行きたいな」
「思ってたよりカードの支払いがあったから来月にしようや」
「結婚するなら〇〇までにしたいな」
「うーん、そうやなあ、できたらいいなあ」
共に過ごす時間は間違い探しをしているようだった。気がつけば“一緒にいられない理由を”数えるようになっていた。
その小さな違い。一緒にいられない理由が数えきれなくなった時。僕らは手を離した。
 
「何も気にせず考えずふたりだけになれたらよかったのに」
 
最後に彼女が言った言葉に思わず涙がこぼれる。
体裁も、年齢も、金銭も、何もかも気にしなくていいふたりだけの世界が欲しかった。
僕もずっとずっと思っていたよ。
 
今更言っても遅いよな。

reGretGirl・平部雅洋>



◆紹介曲「ワールド
作詞:平部雅洋
作曲:平部雅洋