言葉の遠回り

 2024年2月14日に“センチミリメンタル”がニューシングル『スーパーウルトラ I LOVE YOU』をリリースしました。タイトル曲は、2部作の前編となる『映画 ギヴン 柊mix』主題歌。同映画は2019年にTVシリーズが放送され、2020年にアニメ映画が公開された『ギヴン』の続編で、主人公・真冬の幼なじみである鹿島柊と八木玄純にスポットを当てた物語。センチミリメンタルは、同TVシリーズのOP曲となった「キヅアト」及びアニメ映画主題歌となった「僕らだけの主題歌」に続いての起用で、今回も新曲を書き下ろし!
 
 さて、今日のうたではそんな“センチミリメンタル”の温詞による歌詞エッセイを2週連続でお届け。今回は【前編】です。綴っていただいたのは、新曲「スーパーウルトラ I LOVE YOU」にまつわるお話。歌詞に対する温詞の持論とは。そして、その持論が少し変化してきた理由とは…。



「愛してる」や「大好き」などという直接的な言葉を使わずに愛情を表現することに魅力に感じる人は、創作をする側にもそれを受け取る側にも少なからず居ると思う。
かく言う僕もそのうちの1人で、比喩を使ったり、情景や細やかな心の機微を描写する作詞の仕方に強い憧れを抱き、二十歳前後の時は特に直接的なワードから少し逸らした表現を好んで多用していた(恋愛的な歌詞だけにとどまらず)。
 
僕は“人は遠回りに心動かされる”という持論がある。
エベレストの山頂にヘリコプターで到達するより、長く時間をかけ準備し、努力を重ねやっとの思いで登頂した方が感動は大きいに違いないし、大切な人との帰り道は最短ルートで帰るよりも少し寄り道した方が新しい発見や思い出ができるかもしれない。面白い話はフリがあるからオチが活き、悩み相談はいきなり結論を言い放たれるよりちゃんと話を聞いてもらって共感してくれた上だからこそアドバイスが刺さったりする。
 
しかし。僕は何度もこの持論を崩されかけてきた。
「温詞くんの歌詞は結局何を言いたいのか分からない、綺麗な感じの言葉を並べているだけのように感じる」と仲間のミュージシャンから言われ、その反発から簡単で単純な単語のみで曲を作ったら好評で、しかも後に自分が苦しいくらいに人を好きになった時、その曲がやけに心に刺さったりした。
 
伝えたいメッセージを上手く、美しく表現するのではなく、とにかく直接的で、時に暴力的にまで感じられるほど赤裸々なパワーワードを使うというコンセプトで始めた覆面のサブプロジェクトが始動から半年足らずでオーディションでグランプリを獲得した。
 
そして2022年の夏頃。友人から「表現の奥深さを追求するばかりじゃなくて、もっとシンプルな言葉で、さらにもっとわかりやすくメッセージを届ける曲も書いていいんじゃないか?」と言われ、この言葉をぐるぐる反芻しならが明け方の街をひとり歩いた。
 
そんな時に頭に浮かび、ボイスメモに口ずさんだ歌が「スーパーウルトラ I LOVE YOU」の原形だった。
 
今の僕はこう思っている。
人は遠回りに心動かされる。しかし、最短距離が最適な時もある。
 
みんながみんな、いつでも言葉の遠回りに連れ添えるわけじゃない。時間がなかったり、心に余裕がなかったり、そもそもそれを必要としていなかったり。ましてや初めましての人との遠回りは、結構しんどいものがあったりする。
 
そんな時、シンプルで愚直なワードはスッと入り込んできて、僕らの心を掴む。
そして、この人となら遠回りをしてみたいと感じたりする。
要は必要な言葉は人によって、時と場合によって、全然変わるのだ。
どちらも同じくらい魅力的で素晴らしく、同じくらい大切。
 
そもそも語彙力とは難しい言葉をたくさん仕入れて使うことではなく、より相手に伝わりやすく言葉を扱う力のことだ。
 
2019年のTVシリーズからずっと関わらせてもらっている『ギヴン』という作品も言葉をすごく大切にしている作品で、愛しさという想いをいろんな言葉で表現していた。
そんな『ギヴン』で、柊というキャラクターが好きな人を前に「すきすきすきすきすきすき」「あ~~~~~どうしよ好き!!!!」と脳内で叫んでいた。とてもわかりやすい。そうなんだよな、と新たな発見をもらった気がした。
 
そんな彼をクローズアップする『映画 ギヴン 柊mix』の主題歌を担当させてもらえるということになった。
あの言葉が頭に浮かんだ。
2022年夏、ボイスメモに残した、アカペラの「スーパーウルトラ I LOVE YOU」の断片。
この曲しかない。
僕は自分なりの“最短距離”を目指して走り出した。
 
<センチミリメンタル・温詞>



◆紹介曲「スーパーウルトラ I LOVE YOU
作詞:温詞
作曲:温詞