なんて恐ろしいのだバンドってやつは。

 2024年6月19日に“シナリオアート”が7th Mini Album『sensitive sketch』をリリース! 今作には、未発表曲として「イマジナリーサマー」、「ハイティーン」、「ネムレヌイヌ」、「リンドン」以上4曲が収録。メンバー全員がそれぞれ作詞作曲を行なっており、まさに15年間で培った各々の力を総動員した“全員野球”のような1枚です。
 
 さて、今日のうたではそんな“シナリオアート”による歌詞エッセイを3週連続でお届け。今回は第2弾です。執筆はメンバーのヤマシタタカヒサ(Ba/Cho)が担当。綴っていただいたのは、今作に収録されている全7曲のセルフライナーノーツです。曲ができあがるまでの軌跡や、メンバーのやり取り、想いを思い浮かべながらエッセイをお楽しみください。



ハヤシコウスケからの「作った曲を!全曲!褒められたい!俺は褒められたい!」(一部脚色有り)という願いに応え、今回は僕が担当して全曲セルフライナーノーツを書いてみる。
 
もしかしたら自分の言葉が各楽曲の本質を捉えてはいないかもしれないけど、制作していた頃の記憶を辿りながら、シナリオアートに、ハヤシコウスケに、ハットリクミコに想いを馳せながら書いていきたい。曲が出来る過程や僕たちの姿を思い浮かべながら読んでもらえたら。7曲分息切れせずに保つかな。頑張って。
 
 
M-1「アカネイロフィフティーン」
作詞:ハヤシコウスケ 
作曲:ハヤシコウスケ/ハットリクミコ/ヤマシタタカヒサ
 
まだ歌詞もメロディもついていない、リハーサルスタジオで録ったデータが残っていたので聴いてみる。
なんとなく楽曲構成は完成したものに近いが、荒い演奏で手探りな感じが伝わってくる。だがそれが良い。
バンドが持っている衝動や荒さは、若さを含めて良いものとして語られることが多く、若ければ若い方が目立つしウケる。
結成15周年の僕たちにそんな若さはもうないけれど、15歳の頃の衝動とか、いつか偶然見た美しい夕日の景色とか、永遠に留めておけない時間を必死に掴もうとする、コウスケさんの足掻きみたいものが込められている気がして好きだ。
 
 
M-2「イマジナリーサマー」
作詞:ハヤシコウスケ
作曲:ハヤシコウスケ
 
2年ほど前からワンコーラスのデモがあったけど、中々完成に至らなかったこの曲。
コウスケさんの持つキャッチーなメロディセンスが詰まっていて、ポップで可愛らしい中に儚さも感じる。
夏の曲だけど強い真っ青な色じゃなくて、使い古した水性インクみたいに消えそうな青。
アレンジは基本全てコウスケさんがPC上で完結させてレコーディングに臨んだ。ベースとドラムのフレーズに派手さはないのだけど、その中でいかに心地良いノリを作れるかという部分にレコーディングではとても苦労した。音を伸ばして弾くか、短く切って弾くか。スネアの残響の長さはどうするか。ああだこうだ言いながら、限られた時間の中で音を録音していく。大変だけど楽しいけど大変な時間。
 
 
M-3「ハイティーン」
作詞:ハットリクミコ
作曲:ヤマシタタカヒサ
 
アルバムの曲を自分が制作するにあたってよく聴いていたのが2000年代のエモやポップパンク系のバンドで、その中でも“Fall Out Boy”の作品毎の音の変化は意識しながら聴いて、バンドの音にシンセの音をどれくらいのバランスで足していくか悩みながら作っていった。
この辺りの年代とジャンルのバンドは、高校生の時にコウスケさんから教えてもらったり、Fall Out Boyはクミコさんも当時大好きだったということもあり、メンバー3人が共通して影響を受けてきた楽曲の雰囲気を出したいというのが自分の中でテーマだったりする。
歌詞とメロはクミコさんが担当。クミコさんが書いた歌詞は基本コウスケさんが確認して2人で手直しのやり取りをしているのだけど、この曲が最も直しが少なかったと言っていたのが印象的。人は成長するっぽい。
サビのパワフルなリズムの上に、抜けの良い歌がハマってとても良い曲になった。
 
 
M-4「ネムレヌイヌ」
作詞:ハヤシコウスケ
作曲:ハヤシコウスケ
 
FACGCE
この謎なアルファベットの並び、この楽曲のギターのチューニングである。ギターを弾いている人は分かるかもしれないが、変則チューニングと呼ばれるチューニングを使って作られた曲。
コウスケさんがベッドの上でポロポロとアコギを弾きながら作ってる姿が浮かんできて、コウスケさんらしい曲だなと思う(実際にはPCの前でボロボロになりながら作っていたみたいだけど)。
ペットの犬が実は眠れない夜は哲学的なことを考えている、みたいな曲でコウスケさん本人も昔から不眠に悩まされているので自分を投影したイヌなのかなと思ったり。
送られてきたデモにベースが入ってなかったので、どう弾けばいいのかとても悩んだ。
そもそも変則チューニングなのでコードも分からないな…と思いつつ、親指で弾いたり、ミュートして弾いてみたり、細かいフレーズを使ってみたりと試行錯誤しながら弾いたので、今作の中では1番自分らしいベースフレーズになったんじゃないかと思ってる。
眠れない人への子守唄になればいいな。そんな優しい楽曲。
 
 
M-5「メトロノームタワー」
作詞:ハットリクミコ
作曲:ハヤシコウスケ/ハットリクミコ/ヤマシタタカヒサ
 
楽曲制作用のスタジオ当日にコウスケさんが体調不良で来れなくなり、クミコさんと僕の2人で作り始めた曲。
クミコさんがピアノでコードや流れを作って、それを僕が持ち帰って打ち込みでワンコーラスバンドの曲にしたところまでは割とスムーズに進んでよかったが、そこからバンドで共有してスタジオで演奏しても中々先の展開が出てこず、スタジオ後にコウスケさんの家に集まってPC上で作業して、またスタジオに入って演奏して…という感じで苦労した記憶。
ただ、Cメロの<マーマレイド~>からのメロが良い。というか他の曲でもそうだけど、クミコさんの作るCメロのセンスはどの曲もすごいなと思う。J-POPからの影響が強いのかなって気はするけれど、そこも含めてCメロマスターって心の中では呼んでる。
アレンジというか楽曲の持つ雰囲気は、3人とも大好きで特にクミコさんが大好きな“People In The Box”を意識しながら制作。意識して聴けば聴くほどPeople In The Boxの凄さにやられた。
まだまだ僕らは未熟者。成長途中。
 
 
M-6「センシティブガール」
作詞:ハヤシコウスケ
作曲:ハヤシコウスケ/ハットリクミコ/ヤマシタタカヒサ
 
ゼロの状態から曲を作り始めてみようとリハーサルスタジオで少しずつ作っていった曲。
なんだけど、何からどうなって出来ていったのか全然覚えてない。ギターフレーズからできたのか、サビからできたのか、コード進行からできたのか。謎だ。
それもあってバンドの曲っていう印象がとても強い。その場で出てきたリズムにコードを付けて、フレーズを乗せて、そうやって何となく曲っぽくなっていく。
それは何とも不思議な作業で、手応えがあるような無いような、ゴールがありそうで無さそうな道を手探りで進んでる感じ。
サビがくるまで2分以上とすごく長い曲だけど、その分サビでの開放感が大きいね。カタルシス。
 
 
M-7「リンドン」
作詞:ハットリクミコ
作曲:ヤマシタタカヒサ
 
この曲こんな風に仕上がるのか、というのが出来上がった時の印象。
ポップパンク的な楽曲の雰囲気はデモを作った時からあったのだけど、あまりにもその感じが強すぎて正直自分でもデモのまま終わるかな?と思っていた。
メロディと声が持つ力というか、このバンドをシナリオアートたらしめるのが歌なんだなというのを改めて感じる曲になった。
あまり細かいアレンジはしてなくて、曲頭から100%がくる強いタイプの曲をアルバムの最後に持ってくることが無かったので、今作は聞き終わりの感覚がなんとも新鮮だ。
 
 
 
無理だ~出来ない~と言い合いながらまたこうして曲を作ってアルバムを出せた。
苦しくて尊くて、そんな日々の中でバンドって何だっけと考える。
音を鳴らし合う行為の事を指すのか。気持ちを寄せ合う集合体をそう呼ぶのか。
 
バンドを辞めた友人が、辞めて最初はとても楽になる、でもだんだん無くて苦しくなってくる。
って言っていた。なんて恐ろしいのだバンドってやつは。
 
<シナリオアート・ヤマシタタカヒサ(Ba/Cho)>

 
◆7th Mini Album『sensitive sketch』
2024年6月19日発売
 
<収録曲>
M1 アカネイロフィフティーン
M2 イマジナリーサマー
M3 ハイティーン
M4 ネムレヌイヌ
M5 メトロノームタワー
M6 センシティブガール
M7 リンドン