幼馴染

 2024年6月12日に“澤田 空海理”が新曲「お寝み」(読み:おやすみ)をリリースしました。澤田 空海理の20年来の親友の結婚を祝して制作されたウエディングソング。大切な親友とその親友の大切な人へ贈る今作は、「お寝み」を言い合いながら、お互いの人生を見届けるであろう2人を想いながら澤田が紡ぎ出した、暖かさに満ちた作品となっております。楽曲には、親友へのサプライズとして新婦が参加!
 
 さて、今日のうたではそんな“澤田 空海理”による歌詞エッセイをお届け! 綴っていただいたのは、新曲「お寝み」にまつわるお話です。大切な幼馴染・しまちゃん。彼はどんなひとなのか、どんな時間を過ごしてきたのか。そして今作「お寝み」が完成し、彼に届くまでの軌跡は…。今回は音声版もございます。本人の朗読でもエッセイをお楽しみください。


澤田 空海理の朗読を聞く

私が明確に曲を宛てた人、というのは三人います。曲の一部に聞いたエピソードを脚色して入れる、など細かいものを除けばその限りではありませんが、宛先が決まっていると断言できるのは三人です。いずれも私にとって大事な人間です。そのうちの一人が幼馴染である“しまちゃん”です。今回はそんな彼の話をしようと思います。
 
拙作、「昼日中」にはじまり、「29」、そして今回の「お寝み」は彼に向けての曲。更に詳らかにすると出所は違えど、どれも彼へ向いた感情の歌でした。「遊ぶならバレないでね」という、冷めているようでこれ以上ない熱を持つ言葉から制作していった「昼日中」、彼のサプライズプロポーズの成功を見越して出来た「29」、そして彼の結婚式に向けて書いた「お寝み」。普段、人の経験を借りて曲を作るということはあまりしませんが、やはり距離が近いせいでしょうか。他人事と割り切れなかったのだと思います。
 
しまちゃんとは幼稚園、中学校、大学と同じ学び舎で時を過ごしました。実家は徒歩45秒、まさに竹馬の友と言って差し支えない間柄です。つい先日行われた彼と、彼の奥さまの結婚式では友人代表としてスピーチを任せてくれました。式当日の高揚感、こっちまで緊張してしまうような荘厳な教会、人前式がはじまりチャペルのドアが開いた時、誰よりも見知った幼馴染が真顔なのか笑顔なのかわからない神妙な面持ちで立っているあの光景を忘れることはないでしょう。誇らしく、愛らしい姿でした。
 
彼は普段から“言葉にする”を徹底します。幼馴染グループではいの一番に「みんなに会いたい」と声をかけ、率先して場所や予定の段取りを立て、解散の際は最後まで別れを惜しみ、節目にはプレゼントを用意して、何でもない日にもサプライズを用意して、それでも足りないかのように「会えてよかった」と口にする彼の姿に学ぶことは決して少なくはありませんでした。気遣いの豊富さ、マメさには感心を通り越して恐怖すら覚えることがあります。冗談です。
 
ある日、車で一緒に移動していた時、当日は横降りの大雨だったのですが目的地に着くや否や傘を差したまま助手席側までドアを開けに来てくれました。(え!? 恋人にだけやるやつじゃないのそれ!?)と驚愕したのをよく覚えています。他にも、運転中に仕方なくブレーキが急になってしまった時にはすぐに助手席の前に手を差し出す、LINEの文頭には「忙しい中ありがとう!」が必ずといっていいほどつく、何かをする時に「あなたが嫌でなければ」と必ず一言添える、どれも古くからの友人にとる行動としては丁寧すぎます。
 
彼はそれを「意識せずともモテムーブが出来るようになってしまった」と笑いに変えますが、そうじゃないのはこちらも解ります。長い付き合いです。私は決して愛情深い人間とはいえませんし、人の気持ちをうまく理解できない節があります。愛情を向ける対象の範囲が極端に狭いのです。それでも、こうして言葉や感性を届ける職業に就ける程度にはなりました。ひとえに彼から学んだもののおかげです。
 
サプライズにはサプライズで返そうと思ったのです。彼の奥さまに早々にお声かけして、「しまちゃんに対する想いの丈を書けるだけ書いて送ってくれないか」と提案したところ、ご快諾いただくと共にこちらまで嬉しくなってしまうような熱量の文章が返ってきました。二人だけのエピソードや彼女から彼に対する清貧な欲、慎ましやかなお願い、感謝。私も、曲がりなりにも20年と少し彼の近くで過ごしてきました。そして未だに朧気ながらも彼の輪郭みたいなものがゆっくりと視えてきました。そして、彼女からいただいた文言の中にはそれらが余すことなく内包されていて、それは二人の間柄が恙なく進んでいることの証左で、きっとお互いを尊重しあって会話をしているのだろうと確信がもてました。それこそ「言葉にする」を体現したような文章。それを元手に「お寝み」という曲を制作していきました。 
 
更にサプライズを一つ。この歌は作詞作曲編曲が澤田 空海理であっても、曲の根幹は奥さまから彼への想いの丈です。「おやすみ」と語り掛ける時、「じゃあ私からもひとつ」と仕掛ける時、それが奥さまご本人の声だったら。それが音楽という、少なくとも向こう50年は残るであろう形だったら、それはどんなに素敵なことだろうと思案し実際に歌って頂く運びとなりました。
 
プレゼントというのは物品の価値ではなく、その人を思い浮かべて選んだ時間に価値があると私は信じます。それならば彼を想う歌に、彼を想った人の声が入るのが在るべき姿ではないかという考えに至りました。幼馴染にバレないように名古屋に帰る口実を無理やり作り、奥さまにも同様に口実を作っていただき、歌のレコーディングに参加いただきました。コンタクトレンズを買いに行くというテイだったようです。幼馴染からすれば奥さんがコンタクトレンズを買いに行ったと思ったら、実はレコーディングという大仕事を済ませていたのです。「お寝み」は結婚式当日も披露宴会場で流れたのですが、当該箇所で幼馴染が「えー!あなた歌ってるじゃん!!」と横を向く。その瞬間にサプライズを仕掛ける側の楽しさを知りました。これはいいものだね。
 
奥さまときちんと会話をするのはその日が初めてでしたが、言葉の選び方、その慎重さと、たまに出る愛情が隠し切れていない表現の数々に何よりも先に安心が勝ちました。(あぁ、この人がしまちゃんと一緒に居てくれるんだ)という安堵。目の幅を目一杯使う素敵な笑顔はきっと二人の生活をこれ以上ないほどに彩るだろうと確信しました。この場を借りて、改めて感謝いたします。エッセイという形式上、どうしても言葉尻が堅くなってしまいましたが最後はお二人の仲睦まじい日々を願ってこの言葉で締めさせていただければと思います。
 
本当に、本当におめでとう!
 
<澤田 空海理>



◆紹介曲「お寝み
作詞:澤田 空海理
作曲:澤田 空海理


「お寝み」各配信サイト:https://sorisawada.lnk.to/oyasumi