2024年9月4日に“優河”が4thアルバム『Love Deluxe』をリリースしました。今作には、6月にデジタルリリースした「Sunset」、7月にデジタルリリースした「Don’t Remember Me」など全10曲を収録。2023年8月にリリースした「遠い朝」の2024mixも収録。全篇、岡田拓郎がプロデュースを手がけ、魔法バンド、つまり岡田拓郎(Gt)、千葉広樹(B)、谷口雄(Key)、神谷洵平(Drs)というお馴染みメンバーと共にレコーディング。
さて、今日のうたではそんな“優河”による歌詞エッセイを3週連続でお届け。今回は第2弾です。綴っていただいたのは、収録曲「Petillant」にまつわるお話。この歌が生まれたきっかけとは…。何度聴いても何度歌っても、愛おしく思うある夜のことを明かしてくださいました。ぜひ歌詞と併せて、エッセイを受け取ってください。
私たちは日々に散らばる小さな光に救われている。以前この歌ネットへ寄稿した際も多分同じようなことを書いた気がしていて、また同じことを言っていると思われるかもしれない。
でも私は何度も小さな光に救われてきた。新曲「Petillant」で書いたのも、まさにその体験のことを歌っている。
去年の8月のある日、私は落ち込んでいた。側(はた)から見たら、漫画でよくあるような青い線が4、5本、空から私に落ちていたと思うくらいには落ち込んでいた。心に溜まるモヤモヤしたものを抱えながら、友達のほのちゃんと馴染みのお店で微発泡ワイン(Petillant)を飲んでいた。ワインもご飯もとっても美味しかったし、ほのちゃんにこんなことがあって悲しい、こんなふうに言われて腹が立っている、と愚痴をこぼしながら相談に乗ってもらったので待ち合わせた時よりもだいぶ心は落ち着いていた。
私はもともと夜が弱く、友達と飲みに行っても2軒目3軒目と行くことはほぼほぼないのだけれど、その日はほのちゃんも珍しく、家でもうちょっと飲もう!と誘ってくれた。私もなんとなく家に帰る気持ちにならなかったし、まだ飲み足らない気がしたので、帰りにまたワインを買ってほのちゃんの家に向かった。
リビングで最初は色々なことを小声でしっぽり話していたのだけれど、突然どちらかが発したなんでもない一言に二人で笑いが止まらなくなってしまった。気持ちの良いお酒と、深夜すぎの時間帯が相まって変なスイッチが入ってしまい、そこからどれだけ笑っても笑っても抜け出せない。椅子から床に転げ落ちて、二人で床を這いつくばいながら、呼吸も苦しいくらいだった。お腹も背中も破けてしまいそうで、笑い涙も止まらなかった。
今でもその時の一言は覚えている。でも今口にしてみても全く何にも面白くない。なのにその時はおかしくて可笑しくてたまらなかった。その言葉は面白くもなんともないけど、その時の私とほのちゃんの状況を思い返すと吹いてしまう。
笑いのツボからようやく抜け出して、命からがら元いた椅子に座り直す頃には、その日自分が抱えていた悩みなんてどこかへ消えてしまっていた。
私たちが元気になるには、大きな出来事は必要ないのかもしれない。心許す友達との時間、それが私にとって必要な小さな光だったのだと思う。
私たちの周りにはきっと小さな光が散りばめられていて、それはいろんな形をしている。街角に落ちる夕陽だったり、誰かの美しい微笑みだったり、愛情のこもったご飯だったり、猫の寝息だったり、暖かいブランケットだったり。
悩みがある時はその悩みに支配されてしまって、周りのことなんてどうでもよく思えてしまうけど、でも少しその悩みから一歩引いて毎日を見渡してみると、私たちは常に気持ちを入れ替えるチャンスを与えてもらっている気がする。悩みを頑なに握りしめていると、肩も凝るし息もし辛くなってくる。でも、私たちのいる場所には風が吹くし太陽が当たる。雨も降れば植物が潤う。
生きていたら、どうしようもなく落ち込む日はあるけれど、それと同じくらい小さな光が至る所に散りばめられている。
あの日は苦しかったけど、あの悩みがなかったら、伝説的に笑い転げた夜は起きなかったかもしれないし、何度聴いても何度歌ってもあの夜のことを愛おしく思うことはできなかったかもしれない。私はこの曲を歌う度に、あの夜と、ほのちゃん、そして小さな苦しみを讃えたいと思う。
◆4thアルバム『Love Deluxe』
2024年9月4日発売
<収録曲>
01. 遠い朝 - 2024 mix
02. Don’t Remember Me
03. Petillant
04. Love Deluxe
05. Lost In Your Love
06. Mother
07. 香り
08. Tokyo Breathing
09. Sunset
10. 泡になっても