2025年5月28日に“松田今宵”が1st EP『ケの日』をリリースしました。今作には、様々なサウンドと物語が紡ぐ珠玉の全4曲が収録されております。そして、EPタイトル『ケの日』に込められているのは、“丁寧でもないし、穏やかでいられないような毎日…そんな日々にこそ宿る、ちょっとした違和感、癖、弱さなどを、まるごと肯定したい”という想い……。
さて、今日のうたではそんな“松田今宵”による歌詞エッセイを4週連続でお届け! 第1弾は収録曲「記憶捏造計画」にまつわるお話です。ひとりの女の子の、恥ずかしい記憶。今でも思い出してしまう、情けない青春のワンシーンとは…。ぜひ歌詞と併せて、エッセイをお楽しみください!
これは、ひとりの女の子の、とても恥ずかしい記憶の話だ。
*
思い出したくない記憶がある。
だけど、思い出したくないと強く思っているほど、そいつは顔を出す。
これは、わたしの、そんな恥ずかしい記憶。
その人は、斜めまえの席だった。
授業中、先生の独り語りを子守歌に、気持ちよさそうに寝ていた。
穏やかに上下する背中が、どんな夢を見ているのかと、わたしに想像させた。
その温かな呼吸を見ていて、ふと、その姿を記録しておきたいと思った。
ノートにシャーペンで
しゃっ、しゃっ、しゃっ、と画家にでもなった気分で、その人の姿を描いた。
別に絵はうまくない。むしろ下手。
だけど、出来上がった“わたしの好きな人”は、なんとも愛しかった。
「…見せたい」
そう思ってしまった。
気づいてほしかったのだ。わたしの気持ちに。
今だって、わたしが思いを寄せていることなんて気づかずに、のんきに寝息を立てている。
(授業中だというのに!!)
「ねぇこれ、誰だと思う?」
休み時間、気づいたら、
わたしは彼にこんなことを言っていた。
瞬間、心臓が飛び跳ねるように激しく波打った。顔が赤くなっていくのが自分でもわかる。
なんて恥ずかしい。
「? わかんない」
ですよね。下手ですもん。
恥ずかしい。恥ずかしい。今すぐこの場から逃げたい。
だけど、受けた質問には答えないといけない…という、変な正義感がギリギリ勝ち、
「まっちゃん」
「…?」
数秒の沈黙でこの世界が終わったと思った。
恥ずかしさに耐えられず、わたしは、かなりキモい笑い方をしてたと思う。
― 結局、冴えないわたしは、はっきりと伝えられないまま、
その、小さな、情けない、片思いの幕は閉じた。
わたしは、今でもたまに、この無様な青春を思い出しては、うなだれている。
いやいや、このような青い記憶は経験だ!むしろ勲章である!!
と自分に言い聞かせてみたこともある。
いやはや、やっぱ無理だ。恥ずかしくてたまらない。
そんな情けない行ったり来たりをしながらも、
ひとつだけ、決意したことがある。
この恥ずかしさは、墓場まで持っていこう。
誇れるものではないかもしれないけど
恥なら恥のまま、それでいいじゃないか。
だからわたしは、忘れられなかったこの記憶を、
歌にすることにしました。
「記憶捏造計画」というタイトルで。
*
…まぁ、それでもやっぱり、恥ずかしいですけどね。
<松田今宵>
◆紹介曲「記憶捏造計画」
作詞:松田今宵
作曲:松田今宵
◆1st EP「ケの日」
2025年5月28日リリース
<収録曲>
M1. 記憶捏造計画
M2. 霞
M3. かくれんぼ
M4. 遮光カーテン