歌舞伎町のカラオケボックスで短い短いセックスをした
アルタ裏の花屋は潰れた
安いラブホはもうとっくのとうに潰れた
会いたいからお金を貸してたの
くだらない嘘もつかれてたけど
初めて手をつないだ夏の日がロマンチックだったから嫌いになれないのかな
あんたがなんか幸せそうだから、何年も過去が成仏できなかったの
新宿にいるたび 終電がくるたび 思い出しちゃうの、あの人やこの人を
チープなアニバーサリーで埋められたこの街で
死にたい、死にたい、死にたい あたしにも血が流れているんだ
「新宿ドキュメンタリー」/さめざめ
新宿で生きている“あたし”。<アルタ裏の花屋>や<安いラブホ>が潰れて、どんどん月日が経って、それでも離れたくないお相手がいたようです。しかし彼女の恋愛は、女友達に「そんな関係やめなよ!」と言われそうなパターンですよね。<会いたいからお金を貸してた>…だなんて、周りから説教を喰らうに決まっています。おそらくこれまでも、潰れた場所にまた新しい何かが建つように、この街で<あの人やこの人>とそんな不毛な恋をしては別れてきたのではないでしょうか。
でも、誰にわかってもらえなくても、忠告を受けても、その恋をしている時“あたし”は確かに幸せだったのです。お金を口実にしないと関係を繋ぎとめられなくても、いつか終わりがくるとわかっていても、それでも“あたし”にとっては、会える“今”だけが大切だった…。むしろ、誰にもわかってもらえないからこそ、その幸せは自分だけのもので、ますます孤独で甘くて空しい関係に溺れてゆくのでしょう。
今の好きな人に愛されるようになって、またこの街が鮮やかに狂っていくの
「新宿ドキュメンタリー」/さめざめ
そして、彼女は現在、新しい誰かと恋をしているようですが、<またこの街が鮮やかに狂っていくの>というフレーズが、再び繰り返されそうな哀しい最後を予感させます。彼もまた“あたし”の<チープなアニバーサリー>や<チープなドキュメンタリー>を増やす<あの人やこの人>の一員になってゆくのかもしれません。ただし、「新宿ドキュメンタリー」はそのような女性の生き方をマイナスに歌っているわけではなさそうです。
新宿にいるたび 終電がくるたび 思い出しちゃうの、あの人やこの人を
チープなアニバーサリーで埋められたこの街で
生きたい、生きたい、生きたい
青梅街道歩くたび手をつないで歩くたび
泣きたくなんの バイバイしたくないよ、やだ
チープなドキュメンタリーが増えてゆくこの街で
死にたい、死にたい、死にたい 最期はもっかいチューしてね
ネオンに負けた月がにらんでる
きたないきたないあたしのことを
「新宿ドキュメンタリー」/さめざめ
多分、“あたし”は、<チープなアニバーサリー>や<チープなドキュメンタリー>がたくさん埋まった新宿を愛しているのだと思います。街に刻まれている幸せな記憶も、哀しい記憶も、彼女がここまで生き抜いてきた証。だからこそ、ここで<生きたい>し、ここで<死にたい>のです。
また、ラストの<ネオンに負けた月がにらんでる きたないきたないあたしのことを>というフレーズは一見、自嘲的でネガティブに感じますが、月に勝ったネオンの街で生きる“あたし”の強さが際立っているような気もしませんか?この曲ではそんな“あたし”の生命力も描かれているのではないでしょうか。
東京で暮らしているという方はもちろん。東京に住んでいない方も是非、歌詞から街の様子を想像しながらミニアルバム『東京ポルノ』1曲1曲の物語を楽しんでみてください。きっと、住んでいる土地に関係なく、あなたの気持ちに通ずる歌が見つかるはず…!
◆紹介曲「新宿ドキュメンタリー」
作詞:笛田さおり
作曲:笛田さおり
◆1st mini ミニアルバム『東京ポルノ』
2017年6月7日発売
SMZM-0008 ¥1800+TAX
<収録曲>
01.新宿ドキュメンタリー
02.東京午前3時
03.23区のすみっこで
04.ラブホのシュシュ
05.悲劇のヒロイン症候群
06.悪