北村桃児作詞の歌詞一覧リスト  41曲中 1-41曲を表示

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曲名 歌手名 作詞者名 作曲者名 編曲者名 歌い出し
長編歌謡浪曲 その夜の上杉綱憲三山ひろし三山ひろし北村桃児山倉たかし伊戸のりおこの討ち入りの夜 父 上野介襲撃さるるの報に接し 直ちに軍勢を率いて出馬しようとした人がいた、 その身は従四位下、上杉弾正大弼綱憲。 出羽米沢十五万石の名家の為に泣いて止めた千坂兵部、断ち難き親子の絆。 彼も亦運命の糸が操る人間相克の劇(ドラマ)の中の人であった。  一、赤穂浪士の討入りは 敵も味方も雪の中 此処が命の 捨てどころ 月が照らした 人間模様 十と四日の 夜が更ける  二、弾正大弼綱憲は 父を案じて床の中 何故か今宵は 胸騒ぎ 閉(と)じる瞼が 眠りに落ちぬ 十と四日の 夜が更ける  「夜中恐れ乍ら御大守様に申し上げまする。 只今御尊父上野介様お屋敷へ浅野の浪人が斬り込みましてござりまする。 人数の程は、しかと分かりませぬが百人以上との注進にござりまする!」  「何!真か!!うむ己れ!すぐさま 家来共に戦じゃと申せ! ええ!直ちに本所へ繰り出し 浅野のやせ浪人ひとり残らず討ち取るのだ!!」  吉良家の嫡男と生れたが わずか二才で養子となって 名将上杉謙信の 家名を継いだ綱憲が 怒り狂うも無理じゃない 父の命の瀬戸際を 何んでこの侭見逃そう 鎖かたびら身にまとい 黒の小袖に錦の袴 たすき十字に綾なして 槍を小脇にツッ、ツッ、ツツ…… 走り出でゆく玄関先 早くも雪の庭前に 居並ぶ勇士の面々は 家老色部の又四郎 深沢重政 森監物(もりけんもつ) 更に柿崎弥三郎 その数実に三百人  「おう!馬を引け」 我につづけとまたがれば 大門開く八文字 駒はいななき白雪を けたててパッパッパパ…… 日比谷の屋形正に出でんとした時に  「殿!しばらくしばらく!!」 馬のくつわをしっかりと 押えた人は誰あろう 上杉随一、智恵の袋とうたわれた 家老上席千坂兵部その人なり  「兵部何故止めるのだ、現在(いま)父と吾子の義周(よしちか)が浅野の 家来に襲われているのだぞ!そこを退け!兵部ええ!! 退かねば突殺すぞ!!」  槍をかざして馬上に立てば ぐっと見上げた千坂兵部 此処が我慢の仕どころじゃ 貴方は貴方の務めがござる 若しも広島浅野の御宗家 四十万石力にかけても仇討たせると 軍勢まとめて繰り出したなら 最早やひくにもひけませぬ 正に天下の一大事 後の咎は何んとする 歴史に残る上杉の 家名を潰す綱憲様は 愚か者よと笑われましょう 儂の言葉が無理ならば 斬って出陣遊ばせと 血を吐く想いで諫める千坂 その一言が 磐石の 重みとなって胸を打つ  「兵部解った。皆の者それぞれ持場に帰り指示を待て。 千坂よ、仏間に御法燈(みあかし)を灯せ。天下に恥をさらしたとて 父は父。余は独り静かに、あの世へ旅立ちなさる父上の 御冥福(めいふく)を祈ろう。千坂のじいよ。大名の子は辛いのう」  三、槍を大地に突き立てて 泣いて堪えた綱憲の 顔を照らして 陽が昇る 仇も恨みも 降り積む雪も 解けて流れる 朝が来る
長編歌謡浪曲 元禄名槍譜 俵星玄蕃三山ひろし三山ひろし北村桃児長津義司伊戸のりお槍は錆びても 此の名は錆びぬ 男玄蕃の 心意気 赤穂浪士の かげとなり 尽す誠は 槍一筋に 香る誉れの 元禄桜  姿そばやに やつしてまでも 忍ぶ杉野よ せつなかろ 今宵名残りに 見ておけよ 俵くずしの 極意の一手 これが餞(はなむ)け 男の心  涙をためて振返る そば屋の姿を呼びとめて せめて名前を聞かせろよと 口まで出たがそうじゃない 云わぬが花よ人生は 逢うて別れる運命とか 思い直して俵星 独りしみじみ呑みながら 時を過した真夜中に 心隅田の川風を 流れて響く勇ましさ 一打ち二打ち三流れ あれは確かに確かにあれは、 山鹿流儀の陣太鼓  「時に元禄十五年十二月十四日、江戸の夜風をふるわせて、 響くは山鹿流儀の陣太鼓、しかも一打ち二打ち三流れ。 思わずハッと立上り、耳を澄ませて太鼓を数え、 おう、正しく赤穂浪士の討ち入りじゃ、助太刀するは此の時ぞ、 もしやその中に昼間別れたあのそば屋が居りはせぬか、 名前はなんと今一度。 逢うて別れが告げたいものと、けいこ襦袢(じゅばん)に身を固めて、 段小倉の袴、股立ち高く取り上げ、白綾たたんで後ろ鉢巻眼のつる如く、 なげしにかかるは先祖伝来、俵弾正鍛えたる九尺の手槍を右の手に、 切戸を開けて一足表に踏み出せば、 天は幽暗地は凱々たる白雪を蹴立てて、行手は松坂町…」  吉良の屋敷に来て見れば 今討ち入りは真最中 総大将の内蔵之助 見つけて駆け寄る俵星が 天下無双のこの槍で お助太刀をば致そうぞ 云われた時に大石は深き御恩はこの通り 厚く御礼を申します されども此処は此のままに 槍を納めて御引上げ下さるならば有難し かかる折しも一人の浪士が雪をけたてて サク、サク、サクサクサクサクサクサク、  「先生!!」  「おゝ、そば屋か!!」  いや、いや、いや、いや 襟に書かれた名前こそ まことは杉野の十兵次殿 わしが教えたあの極意 命惜しむな名をこそ惜しめ 立派な働き祈りますぞよ さらばさらばと右左 赤穂浪士に邪魔する奴は 何人たりとも通さんぞ 橋のたもとで石突き突いて 槍の玄蕃は仁王立ち  打てや響けや 山鹿の太鼓 月も夜空に 冴え渡る 夢と聞きつつ 両国の 橋のたもとで 雪ふみしめた 槍に玄蕃の 涙が光る
長編歌謡浪曲 元禄桜吹雪 決斗高田の馬場三山ひろし三山ひろし北村桃児山倉たかし江戸は夕焼け 灯ともし頃に 夢を求めて みなし子が 国の越後の 空を見る 顔も赤鞘(あかざや) 安兵衛が 何時か覚えた 酒の味  喧嘩するなら 相手になろか 俺は天下の 素浪人 真武士(まことぶし)なら 男なら やると決めたら 安兵衛は 行くぞ白刃の 只中へ  のりやのばあさんが差出した 手紙を開く中山安兵衛 急ぎしたため参らせ候 堀内源左衛門先生道場で 深く知り合い 叔父甥の 義を結んだるこの菅野 引くにひけない武士の意地 村上兄弟一門と 高田の馬場で果し合い 六十すぎた拙者には 勝目は一つも御座無く候 後に残れる妻や子を お願い申す安兵衛殿 文武秀れたそなたじゃが 酒をつつしみ身を修め 天晴れ出世なさるよう 草葉の陰から祈り参らせ候と 涙で書いた遺言状  「ばあさん、今何ん刻だ。何、辰の下刻か。うぅむ、 高田の馬場まで後半刻、南無や八幡大菩薩、 此の安兵衛が行きつくまでは叔父の身の上守らせ給え。 ばあさん、水だ、水を呉れ!」  関の孫六わし掴み 牛込天竜寺竹町の長屋を飛出す安兵衛は 小石を蹴とばし砂巻き上げて 宙飛ぶ如く駆けてゆく 此れを眺めた大工に左官 床やも八百やも米やのおやじも魚やも それゆけやれゆけ安さんが 大きな喧嘩を見つけたぞ 今夜はたらふく呑めそうだ 後から後から付いて行く 一番後からのりやの婆さん息を切らして ヨイショコラショ ヨイショコラショ 安さん安さん 喧嘩は止しなと駆けてゆく 高田の馬場に来てみれば 卑怯未練な村上一門 わずか二人を取り囲み 白刃揃えて斬りかゝる 哀れ菅野と若党は 次第次第に追いつめられて すでに危うく見えた時 馬場に飛込む安兵衛が 関の孫六抜く手も見せず 村上三郎斬り捨てて 天にも轟く大音声 中山安兵衛武庸が 叔父の菅野に助太刀致す 名乗りを上げてさあ来いと 脇差抜いて左手に 天地に構えた二刀流 右に左に斬り捲くる 折しも叔父の背後(うしろ)から 薙刀(なぎなた)持って祐見が 斬り下ろさんとした時に 撥止と投げた脇差が 背中を貫き見事倒した有様は さながら鬼神か天魔の業か 固唾を呑んで見ていた群衆 どっとあげたる喊声が 高田の馬場にこだまする  剣がきらめく 高田の馬場に 桜吹雪が舞いかかる 買って驕(おご)らぬ 爽やかさ 花の青年  安兵衛の 顔に明るい 春の風
長編歌謡浪曲 あゝ松の廊下三山ひろし三山ひろし北村桃児伏見竜治伊戸のりお-序- 元禄十四年三月十四日、この日は朝からの曇り空、 春とは言えど肌寒い日であった。 東山天皇の勅使前大納言(さきのだいなごん)柳原資廉(すけかど)、 前中納言高野保春、霊元上皇の 院使 前大納言 清閑寺熙定に対して徳川幕府が行う 年頭のしかも最後の儀式の日であった。  浅野長矩「吉良殿 吉良殿 勅使に対し奉りこの浅野長矩(ながのり)が お出迎えする場所はお玄関 式台下にござりましょうか、それとも上にござりましょうか、 今一度お教え下されましょう」 吉野上野介「何度言うたら解るのじゃ さてさて頭の悪い田舎大名 それでも饗応役か お主の様な人間を鮒侍と申すのじゃ ウフフフ えッ!! そこを退かっしゃれ!!」 浅野「うーむ 余りと言えば己れ!上野(こうずけ) 覚悟!!」  武士(もののふ)が 刃を一度び 抜く時は 死ぬも 生きるも命がけ 千代田の城の 奥深き あゝ松の廊下 花に恨みの 風が吹く  「放して下され梶川殿 五万三千石 家をも身をも省(かえりみ)ず 上野介(こうずけのすけ)を討つは、将軍家の御威光(いこう)と役職を笠に着て 私利私欲に走る人非人を斬る為じゃその手を放して討たして下され梶川殿!!」  武士の 情けを 貴殿が知るならば 止めて呉れるな 手を放せ 男の怒り 燃ゆる時 あゝ松の廊下 床に 流した血の涙  武士の 厳しき 運命が恨めしや 明日の命は すでになく 無念が残る 千代田城 あゝ松の廊下 忠臣蔵の 幕が開く
長編歌謡浪曲 あゝ松の廊下(続編)三山ひろし三山ひろし北村桃児伏見竜治伊戸のりお多門(おかど)伝八郎「役儀に依って言葉を改める拙者御目付当番、 多門伝八郎、さて朝散の太夫浅野内匠頭長矩。 其方儀御大法をも辯えず今日、松の廊下に於て 争いに 及ばれたるは如何なる御所存あっての事か」 浅野「恐れ入りました。上(かみ)へ対し奉りては、聊(いささ)かのお恨み もござりませぬが私の怨(うらみ)を持って前後を忘れ刃傷(にんじょう)に及び ました」  多門「其方上野介を討ち果たす心であったか? 又、私ごとの怨(うらみ)とは?…」 浅野「も早や此の場に於いては何事も…何事も…ただ無念 なは上野介を討ち損じたる事。 この身の未熟お恥ずかしく存じまする。 この上は御定法通り御仕置賜るよう、お願いを申しあげ まする」  両手を突いた長矩の 顔の白さが痛ましや さすがに彼も武士よ 覚悟の程も潔(いさぎよ)し 噫ゝ(ああ) 外様大名の悲しさか 天下の法を振りかざし 将軍綱吉直々に 厳しく下る裁断は 家名断絶身は切腹 今朝の晴れ着と打ち変り 網乗物にて芝愛宕下(しばあたごした)の田村邸 泣くに泣けない家臣の一人 片岡源五は殊(こと)の外 おそば近くにつかえたが せめてはひと目御主君の 最後のお姿見届けん 又、二つには御遺言お聞きせねばと田村邸  検死役なる伝八郎に  願い出でたるその時に 逢わしてやるぞ片岡よ 法に照らせばこの儂も 後でおとがめ受けようが 儂の知行の七百石など 惜しくはないぞ 武士の心は 武士の心は 武士が知る
織田信長市川由紀乃市川由紀乃北村桃児春川一夫生まれ育った此の日の本を 乱れ乱してなるものか 駒よいななけ信長の 鎧の胸に懸けた夢 征くは嵐の桶狭間  神も人をも恐もせずに 国の歩みを引く力 旗をなびかせ信長は 広く世界に瞳を向けて 広い天地を馳けめぐる  「蘭丸よ、光秀が謀反とな… 彼の兵力はたしか一万三千… 明智の大たわけめ 己れが此の信長にとって 変れる器量があると思うてか 誰が此の日の本を 力ある一つの国に出来るのだ、 命はそれが無念じゃ」  人間五十年 下天のうちをくらぶれば 夢まぼろしの如くなり うははは…人間とは愚かなものよ  無念涙の唇かんで 燃えて崩れる本能寺 哀れ散り逝く信長の 心の裡(なか)を誰が知ろ 風を盈(はら)んだ夜が明ける
長編歌謡浪曲 元禄花の兄弟 赤垣源蔵三山ひろし三山ひろし北村桃児春川一夫池多孝春―序―  元禄十五年。赤穂浪士の一人・赤垣源蔵は、 芝・浜松町に浪宅を構え、高畠源五右衛門と名前を変えて 吉良邸の動静を探っていた。 かくて、討入りは十二月十四日と決まり、その二日前。 親の無い身であるゆえに父とも母とも 思い慕ってきた兄の塩山伊左衛門に、心中で別れの挨拶をと、 源蔵は兄の屋敷を訪ねたが不在。 しからばと、万感の思いとともに、衣桁にかかる着物を兄とみて、 暇乞(いとまご)いの盃を開けたのであった。 やがて、四十七士が本懐を遂げた十五日の朝、 浪士引揚げの隊列の中に、源蔵も歩みを進めていた。 沿道には見物の人垣。 「そうだ、兄も来るやもしれぬ。私の姿を見つけてくれるやもしれぬ。 最後に一目会いたいと、兄の姿を探す弟。」 元禄花の兄弟の物語。  酒は呑んでも 呑まれちゃならぬ 武士の心を 忘れるな 体こわすな源蔵よ 親の無い身にしみじみと 叱る兄者(あにじゃ)が懐かしい  迫る討入り この喜びを せめて兄者に よそながら 告げてやりたや知らせたい 別れ徳利を手に下げりゃ 今宵名残りの雪が降る  兄のきものに盈々(なみなみ)と 差して呑み干す酒の味  源蔵「兄上、もはや今生(こんじょう)のお別れとなりました。 お顔見たさに来てみたが、 源蔵此れにてお暇仕(いとまつかまつ)りまする。」  兄の屋敷を立出でる 一足歩いて立ち止まり 二足歩いて振り返り 此れが別れか見納めか さすが気丈の赤垣も 少時(しばし)佇む雪の中 熱い涙は止めどなし  かくて果じと気を取り直し、饅頭笠を傾けて目指す行手は両国か。 山と川との合言葉。同じ装束(いでたち)勇ましく、 山道ダンダラ火事羽織、白き木綿の袖じるし。 横川勘平・武林が大門開けば赤垣は宝蔵院流九尺の手槍、 りゅう!としごいてまっさきに吉良の屋敷に踏込んだり。 されど東が明け初めても未だに解らぬ吉良殿在処(ありか)。 さすがの大石内蔵之助、天を仰いで嘆く時、誰が吹くやら呼子の笛。 吉良の手を取り引出し吹くは赤垣源蔵なり。  一夜明くれば十五日赤穂浪士が 引揚げと聞くより兄の塩山は もしや源蔵がその中に 居りはせぬかと立ち上り、  塩山「市助! 市助はおらぬか! おう、市助。赤穂浪士が今引揚げの最中、 たしか弟がその中に居るはずじゃ。 そなた早う行って見届けてきて呉れ! もしも源蔵が居たならば、隣近所にも聞える様 に大きな声で叫んでくれ、よいか!」  もしも居らないその時は 小さな声で儂(わし)にだけ 知らせてくれよ頼んだぞ。 祈る心で待つ裡(うち)に転がる様に 戻り来て、  市助「ヤァー、源蔵さまが居りましたワイ―っ!」  嬉し泪の塩山は雪を蹴立てて真っしぐら、 仙台侯の御門前。群がる人をかき分け かき分け前に進めば源蔵も兄は来ぬかと 背伸びして探し求めている様子。  塩山「源蔵!」 源蔵「兄上かぁ―!」  ひしと見交わす顔と顔、 固く握った手の中に通う 血汐の温かさ 同じ血じゃもの肉じゃもの。  夢を果した男の顔に 昇る旭が美しや 笑顔交して別れゆく 花の元禄兄弟(あにおとうと) 今朝のお江戸は日本晴れ
長編歌謡浪曲 あゝ松の廊下三波春夫三波春夫北村桃児伏見竜治山倉たかし「吉良殿、吉良殿。勅使に対し奉りこの浅野長矩が お出迎えする場所はお玄関式台下にござりましょうか、 それとも上にござりましょうか、今一度お教え下されましょう。」 「何度言うたら解るのじゃ。さてさて頭の悪い田舎大名 それでも饗応役か、お主の様な人間を鮒侍と申すのじゃ、ウフフフ。 えゝッ!! そこを退かしちょれ!!」 「余りと言えば…。 己れ上野(こうずけ)!覚悟!!」  武士(もののふ)が 刃を一度び 抜く時は 死ぬも生きるも 命がけ 千代田の城の 奥深き あゝ松の廊下 花に恨みの 風が吹く  「放して下され梶川殿、五万三千石、家をも身をも省(かえりみ)ず、 上野介(こうずけのすけ)を討つは、 将軍家の御威光(いこう)と役職を笠に着て、 私利私欲に走る人非人を斬る為じゃ、 その手を放して討たして下され梶川殿!!」  武士の 情けを貴殿(あなた)が 知るならば 止めて呉れるな 手を放せ 男の怒り 燃ゆる時 あゝ松の廊下 床に流した 血の涙  武士の 厳しき運命(さだめ)が 恨めしや 明日の命は すでになく 無念が残る 千代田城 あゝ松の廊下 忠臣蔵の 幕が開く  「役儀に依って言葉を改める拙者御目付当番、 多門伝八郎、さて朝散の太夫浅野内匠頭長矩。 其方儀御大法をも辯えず今日、 松の廊下に於て争いに及ばれたるは如何なる御所存あっての事か。」 「恐れ入りました。上(かみ)へ対し奉りては、聊(いささ)かのお恨み もござりませぬが私の怨(うらみ)を持って 前後を忘れ刃傷(にんじょう)に及びました。」 「其方上野介を討ち果たす心であったか? 又、私ごとの怨(うらみ)とは?…」 「も早や此の場に於いては何事も…何事も… ただ無念なわ上野介を討ち損じたる事。 この身の未熟お恥ずかしく存じまする。 この上は御定法通り御仕置賜るよう、お願いを申しあげまする」  両手を突いた長矩の 顔の白さが痛ましや さすがに彼も武士よ 覚悟の程も潔(いさぎ)よし 噫ゝ(ああ) 外様大名の悲しさか 天下の法を振りかざし 将軍綱吉直々に 厳しく下る裁断は 家名断絶身は切腹 今朝の晴れ着と打ち変り 網乗物にて芝愛宕下(しばあたごした)の田村邸 泣くに泣けない家臣の一人 片岡源五は殊(こと)の外 おそば近くにつかえたが、 せめてはひと目御主君の 最後のお姿見届けん 又、二つには御遺言お聞きせねばと 田村邸  検死役なる伝八郎に 願い出でたるその時に 逢わしてやるぞ片岡よ 法に照らせばこの儂も 後でおとがめ受けようが 儂の知行の七百石など 惜しくはないぞ 武士の心は 武士の心は 武士が知る。
長編歌謡浪曲 赤穂城の内蔵之助三波春夫三波春夫北村桃児伏見竜治山倉たかし春の風が 乱れて吹いて 雲が飛ぶ飛ぶ 赤穂城 殿の形見の かずかずに 心の奥で 問いかけて しみじみ泣いた 内蔵之助  「殿、御無念で御座りましたろう。 殿が家督(かとく)をお継ぎ遊したは御年九ツの時、 その頃内蔵之助も家老の重職を承わった、 私は十九で御座りました、 それより数えて二十何年勿体なき事ながら吾が弟とも、 わが子とも思い参らせて、お育て申しました。 殿、内蔵之助が江戸に居りましたなら、 貴方様の口惜しさもお慰め出来たものを。 ……何時ものあのお声でこの内蔵之助をお叱りなされて下さりませ」  殿が愛した 民百姓を 何んで見捨てゝ 良いものか 騒ぐ波風 おだやかに 必らず静めて 見せましょう 最後のこれが 御奉公  「殿が十七才、お輿入れなされた奥方様が十才の春、 御祝言の席上お祝いを申し上げました内蔵之助の目に まるで一対のお雛様のような可愛い御夫婦に見えました。」  今日が最後の 大評定(だいひょうじょう)と 覚悟みなぎる 赤穂城 されど人数は 五十六 すゝり泣きすら 洩れる中 静かに坐る 内蔵之助  「扨(さて)、御一同 赤穂浅野家最後の評定をとる者は、 わずか五十六人かと最前まで内蔵之助は残念に存じておりましたが、 各々方のお顔を見てこれこそ忠誠無二、 大石の心中を打ち開けて頼むに足る方々のみと、 私は嬉しく存じまする。本日まで馴れぬそろばんを手にして どうか領民の生活の立つようにと苦心致しましたのも御主君が 死して後まで陰口叩かれては家来として何んの面目が御座りましょう。 扨、各々方私が只今から申す一事(ひとこと)を どうぞお聞き捜しなきよう、お願いを申上げる。 この大石が今日まで密かに恐れおのゝいていた事は 一天万乗帝の勅使を迎えた当日、例え意趣であり遺恨であるにもせよ 刀を抜いて血で汚した主人内匠頭が犯せし無礼が 帝の御宸禁(ごしんきん)を如何に悩し奉ったかと云う事で御座った。 若しや勅使を蒙(こうむ)る身とならば死して尚、 末世末代内匠頭は皇室不敬の大罪人、我等一同とても日本国中、 身の置き処なき浪人となるで御座りましょう。 それが……それが昨夜京都留守居役小野寺十内どのが帰国致して申さるには、 近衛関白を初め勅使に立たれし柳原大納言様や 公卿の方々より吉良上野介を討ち洩した浅野は不便(ふびん)じゃと 手厚きお悔やみのお言葉を戴きました。 それのみか!それのみか各々方、 京都御所紫宸殿貴き御簾の内より 「浅野内匠頭 想いを達せずはまことに哀れな者」 と畏くも帝の御声を洩れ承わったのじゃ! 喜び召され御一同これにて亡君長矩(ながのり)様は 救われ……救われましたのじゃ!! この上は最早や何処を憚(はばか)り 何処を恐るゝ処もない。 決死の勇士五十六人力を合せて吉良上野介を討つ事で御座る。 又、二ツには幕閣につながる人々の悪政は限りを知らず、 当五代将軍御代に於て取り潰し又、改易となったるは、 大小四十八頭(かしら)その最も大きくは越前宰相五十二万石を始めとして 作州(さくしゅう)津山十八万六千石、その他、合せて、 二百七十一万四千石を幕府の手に取り上げ、 三万有余人の我等と同じ浪人を生むに至った。 御一同よいか、只ひとりの吉良殿を討つ事は 即ち日本国の政道に批判の一矢(いっし)を報ゆる事じゃ、 各々方の、その赤き血を以って連判状に只今から何卒御署名を 願いたいので御座いまする!!」  固き誓いの 連判状に 燃ゆる真心 鬨(とき)の声 一人一人を 見渡して 何時しか突いた両の手に 涙が落ちる 内蔵之助
長編歌謡浪曲 赤穂の妻三波春夫三波春夫北村桃児佐藤川太山倉たかし仇を討つのか 討たぬのか 責める世間の 噂が恐い ここは山科 佇ずまい 耐えて忍んで 赤穂の妻は 祈る心で 月を見る  可愛い主税も 見納めか 生きて此の世で 逢われぬ運命 武士の妻なら 母ならば 何んで泣きましょ 赤穂の妻は 涙耐えて 別れゆく  「おりく身重のそなたに苦労をかけるのう。 内蔵之助はそなたを妻に迎えた事が 一生の裡で一番大きな倖せだった」  北は時雨て南は曇る はいた草鞋の緒が濡れる 実家の但馬の豊岡へ おりく悲しや戻り旅 星の流れは夢の間か 嫁十七白無垢姿 篭にゆられてお嫁入り あの日の儘に故郷の山も 吾が家も昔変らぬなつかしさ しばし佇む玄関先 いそいそいそと出迎える 優しい母のしわの顔 寄る年波の共白髪 父の顔見りゃ 一度にどっと溢れ出る涙を おりくは陰せよう  「おりくあんな昼行燈内蔵之助の処へ そなたを嫁につかわしたわ石塚源五兵衛一代の不覚じゃった! この度のお上の仕打ちは誰か見てもむごいもんじゃ。 山鹿流軍法の奥儀を極めた内蔵之助刈屋城に籠って 武士らしく一戦するかと思うたら、それはやらぬ、城はおめおめ明け渡す。 己は祇園や島原で遊びくさって、どこまで腑抜け腰抜けじゃ。 お前におこってもしょうがない。 這入れ遠慮するなお前の生まれた家じゃ。 何じゃ婆さん、孫達が挨拶も出来ずまごまごしている? 馬鹿もん孫は別じゃ、早ようこっちへ通さんか。 おうおう吉千代にお久宇か。可愛うなったな。 吉千代は十一、お久宇は十三そうかそうか、 山科からよくここまでこられた、疲れたであろう。 足をなげだして楽にするが良い。 兄の主税はどうしていた?父上がこれをおじい様にみせろと言うた。 どれどれこの短刀を…‥おう!一点の曇りなき長船祐定、 この刀を吉千代!お前に形見じゃと内蔵之助が渡したか。 あの形見じゃと!うむ!ウハハ ウハハハ… おりく、よくぞよくぞ離縁されて戻ったのう」  さてこそ婿殿内蔵之助 仇を討つ気であったのか 昼行燈ではなかったぞ 望みは大石江戸を睨んだ胸の裡 用意は充分出来てるわい 可愛い女房や二人の子供 離縁したのもまさかの時に 罪を被ちゃならないと さすが出かした天晴れじゃ おりく分かっているだろうが 去り状持って親元へ 帰るそなたの辛さより 去らせた良雄の悲しさと 息子主税の切なさを 想ってやれよこの子供 立派に育ててやることが 妻の道だぞ務めだぞ 説いて聞かすも親なれば 親なればこそ武士なれば 形見の短刀押し戴いて 孫を抱き寄せこの祖父が 怒って本当に済まなんだ 許してくれと詫びている 父の笑顔に又泣ける 母が運んだ手料理へ 思わずおりくは手を合せ 涙を押えた瞼の裏に 浮かぶ赤穂の天守閣 赤穂の妻は泣きませぬ 赤穂の妻の顔に 晴ればれ夕陽が紅い
長編歌謡浪曲 元禄花の兄弟 赤垣源蔵三波春夫三波春夫北村桃児春川一夫佐藤川太酒は呑(の)んでも 呑まれちゃならぬ 武士の心を 忘れるな 体こわすな源蔵よ 親の無い身にしみじみと 叱る兄者(あにじゃ)が懐かしい  迫る討入り この喜びを せめて兄者に よそながら 告げてやりたや知らせたい 別れ徳利を手に下げりゃ 今宵名残りの雪が降る  兄のきものに盈々(なみなみ)と差して呑み干す酒の味 「兄上もはや今生(こんじょう)のお別れとなりました。 お顔見たさに来てみたが、 源蔵此れにてお暇仕(いとまつかまつ)りまする。」  兄の屋敷を立出でる 一足歩いて立ち止まり 二足歩いて振り返り 此れが別れか見納めか さすが気丈(きじょう)の赤垣も 少時(しばし)佇む雪の中 熱い涙は止めどなし。  「かくて果てじと気を取り直し 饅頭笠を傾けて目指す行手は両国か。 山と川との合言葉 同じ装束(いでたち)勇しく 山道ダンダラ火事羽織 白き木綿の袖じるし 横川勘平武林が大門開けば赤垣は宝蔵院流九尺の手槍、 りゅう!としごいてまっさきに吉良の屋敷に踏込んだり。 されど東が開け初めても未だに解らぬ吉良殿在処(ありか) さすがの大石内蔵之助天を仰いで嘆く時誰が吹くやら呼子の笛 吉良の手を取り引い出し吹くは赤垣源蔵なり」  一夜開くれば十五日 赤穂浪士が 引揚げと 聞くより兄の塩山は もしや源蔵がその中に 居りはせぬかと立ち上り、 「市助!市助はおらぬか!」 「おう、市助赤穂浪士が今引揚げの最中、たしか弟がその中に居るはずじゃ そなた早よう行って見届けてきて呉れ! もしも源蔵が居たならば、隣近所にも聞こえる様に 大きな声で叫んでくれ、よいか!」  もしも居らないその時は 小さな声で儂(わし)にだけ 知らせてくれよ頼んだぞ。 祈る心で待つ裡(うち)に 転がる様に戻り来て  「ヤァー源蔵さまが居りましたワイ」 嬉し泪の塩山は雪を蹴立てて真っしぐら仙台候の御門前 群がる人をかき分け、かき分け前に進めば源蔵も 兄は来ぬかと背延びして、探し求めている様子。 「源蔵!」 「兄上か!」 ひしと見交わす顔と顔、固く握った手の中に通う血汐の温かさ 同じ血じゃもの肉じゃもの。  夢を果した男の顔に 昇る旭が美しや 笑顔交して別れゆく 花の元禄兄弟(あにおとうと) 今朝のお江戸は日本晴れ
長編歌謡浪曲 その夜の上杉綱憲三波春夫三波春夫北村桃児山倉たかし山倉たかしこの討ち入りの夜 父 上野介襲撃さるるの報に接し 直ちに軍勢を率いて出馬しようとした人がいた、 その身は従四位下、上杉弾正大弼綱憲。 出羽米沢十五万石の名家の為に泣いて止めた千坂兵部、断ち難き親子の絆。 彼も亦運命の糸が操る人間相克の劇(ドラマ)の中の人であった。 赤穂浪士の討入りは 敵も味方も雪の中 此処が命の 捨てどころ 月が照らした 人間模様 十と四日の 夜が更ける  弾正大弼綱憲は 父を案じて床の中 何故か今宵は 胸騒ぎ 閉(と)じる瞼が 眠りに落ちぬ 十と四日の 夜が更ける  「夜中恐れ乍ら御大守様に申し上げまする。 只今御尊父上野介様お屋敷へ浅野の浪人が斬り込みましてござりまする。 人数の程は、しかと分かりませぬが百人以上との注進にござりまする!」  「何!真か うむ己れ!すぐさま 家来共に戦じゃと申せ! ええ!直ちに本所へ繰り出し 浅野のやせ浪人ひとり残らず討ち取るのだ!!」  吉良家の嫡男と生れたが わずか二才で養子となって 名将上杉謙信の 家名を継いだ綱憲が 怒り狂うも無理じゃない 父の命の瀬戸際を何んでこの侭見逃そう 鎖かたびら身にまとい黒の小袖に錦の袴たすき十字に綾なして 槍を小脇にツーツーツーツ 走り出でゆく玄関先早くも雪の庭前に 居並ぶ勇士の面々は家老色部の又四郎 深沢重政森監物(もりけんもつ)更に柿崎弥三郎 その数実に三百人  「おう!馬を引け」  我につづけとまたがれば 大門開く八文字 駒はいななき白雪を けたててパッパッパッ…… 日比谷の屋形正に出でんとした時に  「殿!しばらくしばらく!!」  馬のくつわをしっかりと 押えた人は誰あろう 上杉随一、智恵の袋とうたわれた 家老上席千坂兵部その人なり。  「兵部何故止めるのだ、現在(いま)父と吾子の義周(よしちか)が浅野の 家来に襲われているのだぞ!そこを退け!兵部ええ!! 退かねば突殺すぞ!!」  槍をかざして馬上に立てば ぐっと見上げた千坂兵部 此処が我慢の仕どころじゃ 貴方は貴方の務めがござる 若しも広島浅野の御宗家 四十万石力にかけても仇討たせると 軍勢まとめて繰り出したなら 最早やひくにもひけませぬ 正に天下の一大事 後の咎は何んとする 歴史に残る上杉の 家名を潰す綱憲様は 愚か者よと笑われましょう 儂の言葉が無理ならば 斬って出陣遊ばせと 血を吐く想いで諫める千坂 その一言が 磐石の 重みとなって胸を打つ。  「兵部解った。皆の者それぞれ持場に帰り指示を待て。 千坂よ仏間に御法燈(みあかし)を灯せ天下に恥をさらしたとて父は父。 余は独り静かにあの世へ旅立ちなさる父上の御冥福(めいふく)を祈ろう。 千坂のじいよ。大名の子は辛いのう……。」  槍を大地に突き立てて 泣いて堪えた綱憲の 顔を照らして 陽が昇る 仇も恨みも 降り積む雪も 解けて流れる 朝が来る
長編歌謡浪曲 元禄桜吹雪 決闘高田の馬場三波春夫三波春夫北村桃児山倉たかし山倉たかし江戸は夕焼け 灯ともし頃に 夢を求めて みなし子が 国の越後の 空を見る 顔も赤鞘(あかさや) 安兵衛が 何時か覚えた 酒の味  喧嘩するなら 相手になろうか 俺は天下の 素浪人 真(まこと)武士なら 男なら やると決めたら 安兵衛は 行くぞ白刃の 只中へ  のり屋のばあさんが差出した 手紙を開く 中山安兵衛 急ぎしたため 参らせ候 堀内源左衛門先生 道場で深く知り合い 叔父甥の、義を結んだるこの菅野 引くにひけない 武士の意地 村上兄弟一門と 高田の馬場で果し合い 六十すぎた拙者には 勝目は一つも御座無く候 後に残れる妻や子を お願い申す安兵衛殿 文武秀れたそなたじゃが 酒をつゝしみ身を修め 天晴れ出世なさるよう 草葉の陰から祈り参らせ候と 涙で書いた遺言状。  「ばあさん!今何ん刻だ!何に辰の下刻か、 うーむ高田の馬場まで後半刻、 南無や八幡大菩薩此の安兵衛が行きつくまでは叔父の身の上守らせ給え! ばあさん水だ! 水を呉れ!」  関の孫六わし掴み 牛込天竜寺竹町の長屋を飛出す安兵衛は 小石をけとばし砂巻き上げて 宙飛ぶ如く駆けてゆく 此れを眺めた大工に左官 床やも 八百やも 米やのおやじも 魚やも それゆけ やれゆけ 安さんが 大きな喧嘩を見つけたぞ 今夜はタラフク呑めそうだ 後から後から付いて行く 一番後からのり屋の婆さん息を切らして ヨイショコラショ ヨイショコラショ 安さん安さん!! 喧嘩は止しなとかけてゆく 高田の馬場に来てみれば 卑怯未練な村上一門 わずか二人を取り囲み 白刃揃えて斬りかゝる 哀れ菅野と 若党は次第次第に追いつめられて すでに危うく見えた時 馬場に飛込む安兵衛が 関の孫六抜く手も見せず 村上三郎斬り捨てゝ 天にも轟く大音声(おんじょう) 中山安兵衛武庸が叔父の菅野に助太刀致す、 名乗りをあげて さあ来いと脇差抜いて 左手に天地に構えた 二刀流右に左に斬り捲くる、 折しも叔父の背後(うしろ)から薙刀(なぎなた)持って 祐見が、斬り下ろさんとした時に 撥止投げた脇差が 背中を貫き見事倒した有様は、 さながら、鬼神か天魔の業か かたずを呑んで 見ていた群衆 どっとあげたる歓声が 高田の馬場にこだまする。  剣がきらめく 高田の馬場に 桜吹雪が舞いかかる 勝って驕(おご)らぬ 爽やかさ 花の青年 安兵衛の 顔に明るい 春の風
長編歌謡浪曲 豪商一代 紀伊国屋文左衛門三波春夫三波春夫北村桃児長津義司長津義司惚れた仕事に 命をかけて 散るも華だよ 男なら 怒濤逆巻く 嵐の中を 目指すは遙か 江戸の空 花の文左の みかん船  肝の太さと 度胸の良さに 勇み集まる 十二人 力合せて 乗り出す船は これも故郷の 人の為 征くぞ夜明けの 和歌の浦  浜辺に送る妻や子が、別れを惜しんで呼ぶ声も風に悲しく千切れ飛ぶ、 まして文左の新妻は、今年十九のいじらしさ、 せめても一度もう一度、背伸びしながら手を振れど、 雨と嵐にさえぎられ、かすむ良人の後ろ影、 これが別れになりゃせぬか、女心の切なさよ。  「白装束に身を固めて、梵天丸に乗り移った文左衛門。 時に承応元年十月二十六日の朝まだき。 此の時、遥か街道に駒のいななき、蹄の音は、連銭芦毛に鞭打って、 パッ、パッ、パッパッパッパー。 馬上の人は誰あろう、歌に名高き玉津島明神の神官、高松河内。 可愛い娘の婿どのが、今朝の船出の餞けと、 二日二夜は寝もやらず、神に祈願をこめました。 海上安全守りの御幣背中にしっかりとくくりつけ、 嵐の中を歯を喰いしばり親の心の有り難さ。 婿どのイヤ待ったと駆けつけた。」  涙で受取る文左衛門。未練心を断つように、 波切丸を抜き放ち、切ったとも綱、大碇は、 しぶきを上げて海中へ、ザ、ザ、ザ、さぶん――。 眺めて驚く船頭に、せくな騒ぐな此の船は、神の守りの宝船じゃ。 張れよ白帆を巻き上げよ、船は忽ち海原へ、疾風の如く乗り出す。 寄せくる波は山の様、嵐はさながら息の根を、止めんばかりの凄まじさ。 舳に立った文左衛門は、両の眼をらんらんと、 刀を頭上に振りかざし、無事に江戸まで、 八大竜王守らせ給えと念じつつ、 熊野の沖や志摩の海、遠州相模の荒灘も、 男一代名をかけて、乗り切る文左のみかん船。  沖の暗いのに白帆がサー見ゆる あれは紀の国ヤレコノコレワイノサ みかん船じゃエー  八重の汐路に 広がる歌が 海の男の 夢を呼ぶ 花のお江戸は もうすぐ近い 豪商一代 紀伊国屋 百万両の 船が行く
長編歌謡浪曲 長谷川伸原作「瞼の母」より 瞼の母三波春夫三波春夫北村桃児北村桃児斉藤恒夫母の面影 瞼の裏に 描きつゞけて 旅から旅へ 昨日は東と 訊いたけど 今日は西だと 風便り 縞の合羽が 泪に濡れて 母恋い番場の 忠太郎  母は俺らを どうして捨てた 恨む心と 恋しい想い 宿無し鴉の 見る夢は 覚めて悲しい 幕切れさ 生れ在所(こきょう)も 遥かに遠い 母恋い番場の 忠太郎  「おかみさん、当って砕けろの心持で 失礼な事をお尋ね申しますでござんすが おかみさん、若しやあっしぐらいの男の子を持った憶えはござんせんか あっ!憶えがあるんだ 顔に出たその愕きが、 ところは江州坂田の郡醒ヶ井村から南へ一里、 磨針峠の山の宿場で番場という処がござんす、 おきなか屋忠兵ヱという、六代続いた旅館へ嫁に行き 男の子をひとり生みなすった。 そしてその子が五つの時に家を出た。 罪は父親にあったと訊きました。 おっ母さん、あっしが伜の忠太郎でござんす」  春秋数へて 二十年 想い焦がれて 逢いに来た  たった一人の 母だもの どんなお方で あろうかと 寝ても覚めても その事ばかり 無事でいたなら よいけれど 暮らしに困って いる時は 助けにゃならぬと 百両を 肌身離さず 抱いていた  若しや若しやと 逢う人毎(ごと)に 尋ね尋ねて 日が昏れりゃ 夕餉(ゆうげ)の煙りが 切なくて 窓に灯りが ともる頃 人の軒場に 佇ずんで 忍び泣きした こともある 此処はお江戸の柳橋 人に知られた 水熊よ 母を尋ねて くるなれば 何故に堅気で 来なかった とがめるお浜の 目に涙 じっと見返す 忠太郎は そいつぁ無理だぜ おかみさん 親に放れた 小僧ッ子が グレて堕ちたは 誰の罪 何んの今更 どうなろう よしや堅気に なったとて 喜ぶ人は ござんせん 侭よ 浮世を三度笠 六十余州の 空の下 股旅草鞋(わらじ)を 穿くだけよ 逢いたくなったら 目をつぶろ 俺が探した おふくろは 夢に出て来た 瞼の母は こんな冷たい 女(ひと)じゃない 逢わぬ昔が 懐しい。  望みも断たれて悄然と 座敷を出る時、 すれ違った妹のお登世これがそうかと肉身の情に魅かれつゝ、 荒川堤をゆく、旅人姿の忠太郎 この時二丁の早籠が母と妹を乗せて馳けてくる。 母は吾子を妹は兄の名を呼び乍。 「誰が、誰が逢ってやるもんか、 それでいい逢いたくなったら、俺ァ瞼をつぶろうよ あゝまだおっ母さん あんなに俺を呼んでいる、 妹もあんなに一生懸命呼んでいる、 おっ母さん!忠太郎は此処だよ、おっ母さん!」  母は子を呼び 子は母を呼ぶ 朝の光りも 東を染める 荒川堤を 駆けてゆく 笠も合羽も 投げ捨てゝ 嬉しかろうぜ 親子じゃないか 泣いて瞼の 母を抱け
長編歌謡浪曲 天竜二俣城三波春夫三波春夫北村桃児春川一夫池田孝文亀三年即ち西暦一五〇三年の事、 二俣昌長が築城したこの城はところどころ崩れ落ちているとはいえ、 その石の色、城の型、さすが奥州二本松城につぐ 日本最古の城であると云うにふさわしく、 歴史の息吹きはそくそくとして訪れる人に何かを語りかけている。 天主閣のあった場所に立ち、西北を望めば天竜川は眼下に広々と豊かに流れ、 長がとそびえる鳥羽山、赤石山系を南北に見る。 南の山裾は浜松へ通ずる街道か。紺碧の空、白雲東方へ静かになびく風情。 時に天正七年九月一五日、徳川家康の長男岡崎三郎信康は、 父が向けた討手の使者天方山城守服部半蔵を此の池に迎えて、 自害して果てた。 天下統一の大望を持つ織田信長は、 娘の徳姫の良人である信康を殺せと家康に命じた。 時に信康年二十一歳であった。  秋の夕陽に 散る山紅葉 色もひとしお 鮮やかに 信康哀れ 流れも清き 天竜の 水の鏡に 映し出す 二俣城の影悲し  冬の夜空を 啼きながら 親を尋ねて 鳥が飛ぶ 信康哀れ 涙を抱いた 天竜の 瀬音悲しや さらさらと 二俣城を 照らす月  「その方達、おくれを取るなよ。 この信康覚悟を決めて待っていたぞ。 だが之だけは舅信長に!…… いや、お父上に伝えてくりゃれ。 三郎信康は天地の神に誓って、身にやましい事はなかったと、 最後まで真の武士であったと。……忘れるな!!」  脇差し抜いて 逆手に持って 座り直した 信康の 白装束が 痛ましや ああ 戦国の 恐ろしさ 力と智惠に 恵まれすぎた 人間ならば 吾子でも 婿であっても憎いのか 逃げて下されお願いじゃ 必死にすがる小姓の忠鄰 かぶりを振って信康は そなたの心は嬉しいが 逃げて何処に道がある その道こそは死ぬ事よ 吾子を斬れと言う親が 三千世界のどこに居る 今こそは儂は父上の 深い心が読めたのだ 乱れ乱れた日の本に 永く平和を築く為 鳴かぬなら 鳴くまで待とう ほととぎす 父の辛さがしみじみと 切ない程に胸にくる ああ 反逆児と人が言う 岡崎三朗信康の 悟る笑顔に 散る涙  三つの葉葵の 葉が香る 花の名残りの 井戸やぐら 信康哀れ 桜を浮かべ 天竜は 今日も流れる 悠々と 二俣城の 夢の跡
長編歌謡浪曲 勝海舟三波春夫三波春夫北村桃児遠藤実只野通泰江戸で生れてああ長屋で育ち 今じゃ幕府の総大将 星の流れは皮肉なものさ 月にうそぶく勝海舟の 胸にゃ真っ赤な火が燃える  時代の流れと勢いは 誰が止めても止まらない 無心に遊ぶ子供らが 手まり唄にも口ずさむ 宮さん 宮さん お馬の前で ヒラヒラするのは何じゃいな トコトンヤレトンヤレナ あれは朝敵征伐せよとの 錦の御旗じゃないかいな 菊は栄えて葵は枯れる 西にひずめの音がする  「近代日本の暁を告げる刻の鐘は、 いんいんとして鳴り渡る慶応四年の春、 薩長土肥連合軍は、江戸を目指して怒涛の如く進撃を開始した。 有栖川宮を大総督と仰ぎ、全軍の指揮を取るは、 参謀筆頭薩摩の大南洲西郷隆盛。 これを迎えて江戸を守らんとする海舟、 勝麟太郎彼こそ正に真理を貫く天才的な人であった」  「なあ益満、西郷どんに逢ったら云っておくれ。 勝はホンニ臆病だからねぇ。 戦は恐がっていたよって。俺ら百五十万人の人間が住んでいる江戸が、 天子様の軍勢の為に丸焼けにされるなんて考えたら、 おちおち眠っちゃいられねえよってなア。 じゃ山岡西郷さんへの手紙はこれだ。 読んだらきっと唸るだろうさ。そこで、あんたも私も日本人、 いやさ!皆天子様の子供だと云っておやり…。 まあよろしく頼みましたよ」  軽くくだけてああ口では云うが 腹じゃ何時でも死ぬ覚悟 江戸を焼くのか花見とゆくか そちら次第と勝海舟が 賭けた天下の大勝負 錦の旗をなびかせて 東海道をひた押しに 軍勢進める西郷の 心の動きを見つめつつ 徳川二百八十年 舞台の幕を締める役 吾身ひとつに引受けて 八百八町の誰ひとり 殺しちゃならぬ守らにゃならぬ 迎えて立った勝海舟 時は熟した慶応四年 桜ほころぶ三月半ば 青毛よ走れと一鞭当てて 手網さばきも鮮やかに 蹄の音を響かせて パーッパカパーッパカパッパカパッパカ… 薩摩屋敷の門前に 駒を飛ばして乗りつけた  「おーい、そこの兵隊達!西郷参謀は何処に居る! 俺は海軍総裁勝麟太郎だ!」 慄然として呼ぶ声に 敵であるべき薩摩の兵士 思わず知らず捧げ銃威儀を正して迎えたり この時西郷隆盛は 自ら門を馳け出して思わず 両手を差し延べて 「勝先生!」 「おう西郷さん!」 握る手と手に万感の 想いが籠る両雄の 瞼に浮かぶ涙こそ あゝ幕末の動乱を 救う涙か 明治維新のあけぼのを 飾る涙か虹の色 薩摩隼人と江戸っ子が 共に語る人の為 共に語る国の為  腹が分ればああ話しは早い 渡しましたぞこの江戸を 頼みますぞこの日本を 祈る想いの勝海舟に 花の明治の夜が明ける
あゝ北前船三波春夫三波春夫北村桃児浜圭介馬飼野俊一男命の 北前船は 宝運びの 心意気 心意気よ 海が時化たと弱音を吐くな 沖のかもめが笑うじゃないか 風は追風 帆を捲き上げろ 屋号染め抜くソレソレソレ 自慢船  春の海ゆく 北前船は 歌が流れて 帆が揺れる 帆が揺れるよ ハイヤ節でも 越後へ来れば あの娘見染めて おさけに変わる 信濃追分け 港で仕入れ 江差 松前ソレソレソレ 蔵が建つ  冬の海ゆく 北前船は 可愛い女子も 乗せられぬ 乗せられぬよ お主ァ東か 儂ァ西廻り 北の海幸 南へ運びゃ やがて 花咲く嬉しい春だ おっとドッコイ ソレソレソレ 面舵よ
俵星玄蕃三山ひろし三山ひろし北村桃児長津義司吉良家にほど近い本所横網町に宝蔵院流の槍 を取っては天下の名人と云われた俵星玄蕃が 居た。上杉の家老千坂兵部(ひょうぶ)は二百五十石の高 禄を以って召抱えようと使者を立てた、勿論 吉良家の附人としてである。だが夜なきそば 屋当り屋十助こそ赤穂浪士の世を忍ぶ苦心の 姿と深く同情を寄せていた玄蕃は之を決然と 断った。  玄蕃 「のうそば屋お前には用の無いことじゃがまさかの時に役に立つかも知れぬぞ 見ておくがよい。」十六俵の砂俵の前にすっくと立った俵星、 思わず 雪の大地に正座して 息をころして見つめる杉野 あゝこれぞ元禄名槍譜(めいそうふ) 一. 槍は錆びても 此の名は錆びぬ 男玄蕃の 心意気 赤穂浪士の かげとなり 尽す誠は 槍一筋に 香る誉れの 元禄桜 二. 姿そばやに やつしてまでも 忍ぶ杉野よ せつなかろ 今宵名残りに 見ておけよ 俵くずしの 極意の一手 これが餞(はなむ)け 男の心  涙をためて振返る。 そば屋の姿を呼びとめて、 せめて名前を聞かせろよと、 口まで出たがそうじゃない 云わぬが花よ人生は、 逢うて別れる運命とか 思い直して俵星 独りしみじみ呑みながら、 時を過した真夜中に、 心隅田の川風を 流れてひびく勇ましさ 一打ち二打ち三流れ あれは確かに確かにあれは、 山鹿流儀の陣太鼓 「時に元禄十五年十二月十四日、江戸の夜風 をふるわせて響くは山鹿流儀の陣太鼓、しか も一打ち二打ち三流れ、思わずハッと立上り、 耳を澄ませて太鼓を数え「おう、正しく赤穂 浪士の討ち入りじゃ」助太刀するは此の時ぞ、 もしやその中に昼間別れたあのそば屋が居 りわせぬか、名前はなんと今一度、逢うて別 れが告げたいものと、けいこ襦袢(じゅばん)に身を固めて、 段小倉の袴、股立ち高く取り上げ、白綾た たんで後ろ鉢巻眼のつる如く、なげしにかか るは先祖伝来、俵弾正鍛えたる九尺の手槍を 右の手に、切戸を開けて一足表に踏み出せば、 天は幽暗地は凱々たる白雪を蹴立てて行手は 松坂町……」  吉良の屋敷に来て見れば、 今、討ち入りは真最中 総大将の内蔵之助。 見つけて駆け寄る俵星が、 天下無双のこの槍で、 お助太刀をば到そうぞ、 云われた時に大石は深き御恩はこの通り、 厚く御礼を申します。 されども此処は此のままに槍を納めて 御引上げ下さるならば有難し、 かかる折しも一人の浪士が雪をけたててサク、 サク、サク、サク、サク、サク、サク― サク―  「先生」 「おうッ、そば屋か」  いや、いや、いや、いや、 襟に書かれた名前こそ まことは杉野の十兵次殿、 わしが教えたあの極意、 命惜しむな名をこそ憎しめ、 立派な働き祈りますぞよ さらばさらばと右左。 赤穂浪士に邪魔する奴は、 何人(なんびと)たりとも通さんぞ、 橋のたもとで石突き突いて、 槍の玄蕃は仁王立ち…… 三. 打てや響けや 山鹿の太鼓 月も夜空に 冴え渡る 夢と聞きつつ 両国の 橋のたもとで 雪ふみしめた 槍に玄蕃の 涙が光る
元禄名槍譜 俵星玄蕃神野美伽神野美伽北村桃児長津義司槍は錆びても 此(こ)の名は錆びぬ 男玄蕃の 心意気 赤穂浪士の かげとなり 尽す誠は 槍一筋に 香る誉れの 元禄桜  姿そば屋に やつしてまでも 忍ぶ杉野よ せつなかろ 今宵名残に 見ておけよ 俵崩の 極意の一と手 これが餞(はなむ)け 男の心  涙をためて振り返る そば屋の姿を呼びとめて せめて名前を聞かせろよと 口まで出たがそうじゃない 云わぬが花よ人生は 逢うて別れる運命とか 思い直して俵星 独りしみじみ呑みながら 時を過した真夜中に 心隅田の川風を 流れてひびく勇ましさ 一打ち二打ち三流れ あれは確かに確かにあれは 山鹿流儀の陣太鼓  「時に元禄十五年十二月十四日、 江戸の夜風をふるわせて、響くは山鹿流儀の陣太鼓、 しかも一打ち二打ち三流れ、思わずハッと立ち上り、 耳を澄ませて太鼓を数え 「おう、正しく赤穂浪士の討ち入りじゃ」 助太刀するは此の時ぞ、 もしやその中にひるま別れたあのそば屋が 居りはせぬか、名前はなんと今一度、 逢うて別れが告げたいものと、けいこ襦袢(じゅばん)に身を固めて、 段小倉の袴、股立ち高く取り上げ、 白綾たたんで後ろ鉢巻眼のつる如く、なげしにかかるは先祖伝来 俵弾正鍛えたる九尺の手槍を右の手に、 切戸を開けて一足表に踏み出せば、 天は幽暗地は凱々たる白雪を蹴立てて行手は松阪町…」  吉良の屋敷に来て見れば、今、討ち入りは真最中、 総大将の内蔵之助。見つけて駆け寄る俵星が、 天下無双のこの槍で、お助太刀をば致そうぞ、 云われた時に大石は深き御恩はこの通り、厚く御礼を申します。 されども此処は此のままに、 槍を納めて御引上げ下さるならば有り難し、 かかる折りも一人の浪士が雪をけたてて サク、サク、サク、サク、サク、サク、サク 『先生』『おうッ、そば屋か』 いや、いや、いや、いや、襟に書かれた名前こそ、 まことは杉野の十兵次殿、わしが教えたあの極意、 命惜しむな名おこそ惜しめ、立派な働き祈りますぞ、 さらばさらばと右左。赤穂浪士に邪魔する奴は何人(なんびと)たりとも 通さんぞ、橋のたもとで石突き突いて、槍の玄蕃は仁王立ち…  打てや響けや 山鹿の太鼓 月も夜空に 冴え渡る 夢と聞きつつ 両国の 橋のたもとで 雪ふみしめた 槍に玄蕃の 涙が光る
元禄花の兄弟 赤垣源蔵島津亜矢島津亜矢北村桃児春川一夫酒は呑(の)んでも 呑まれちゃならぬ 武士の心を 忘れるな 体こわすな源蔵よ 親の無い身にしみじみと 叱る兄者(あにじゃ)が懐かしい  迫る討入り この喜びを せめて兄者に よそながら 告げてやりたや知らせたい 別れ徳利を手に下げりゃ 今宵名残りの雪が降る  兄のきものに盈々(なみ)と 差して呑み干す酒の味 「兄上 もはや今生(こんじょう)のお別れとなりました。 お顔見たさに来てみたが、 源蔵此れにてお暇仕(いとまつかまつ)りまする。」  兄の屋敷を立ち出でる 一足歩いて立ち止まり 二足歩いて振り返り 此れが別れか見納めか さすが気丈(きじょう)の赤垣も少時(しばし)佇む雪の中 熱い涙は止めどなし。  「かくて果てじと気を取り直し 饅頭笠を傾けて 目指す 行手は両国か。 山と川との合言葉 同じ装束(いでたち)勇しく 山道ダンダラ火事羽織 白き木綿の袖じるし 横川勘平武林が大門開けば赤垣は宝蔵院流九尺の手槍、 りゅう!としごいてまっさきに吉良の屋敷に踏込んだり。 されど東が開け初めても未だに解らぬ吉良殿在処(ありか) さすがの大石内蔵之助 天を仰いで嘆く時 誰が吹くやら呼子の笛 吉良の手を取り引い出し吹くは 赤垣源蔵なり  一夜開くれば十五日 赤穂浪士が 引揚げと 聞くより兄の塩山は もしや源蔵がその中に 居りはせぬかと立ち上り、  「市助!市助はおらぬか!」 「市助赤穂浪士が今引揚げの最中、たしか弟が その中に居るはずじゃ そなた早よう行って 見届けてきて呉れ! もしも源蔵が居たならば、隣近所にも聞こえる様に 大きな声で叫んでくれ、よいか!」  もしも居らないその時は 小さな声で儂(わし)にだけ 知らせてくれよ頼んだぞ。祈る心で待つ裡(うち)に転がる様に戻り来て、  「ヤァー源蔵さまが居りましたワイ」 嬉し泪の塩山は雪を蹴立てて、真っしぐら仙台候の御門前 群がる人をかき分け、かき分け、前に進めば源蔵も 兄は来ぬかと背延びして、 探し求めている様子。 「源蔵!」 「兄上か!」 ひしと見交わす顔と顔、固く握った手の中に 通う血汐の温かさ 同じ血じゃもの肉じゃもの。  夢を果した男の顔に 昇る旭が美しや 笑顔交して別れゆく 花の元禄兄弟 今朝のお江戸は日本晴れ
出世佐渡情話島津亜矢島津亜矢北村桃児長津義司池多孝春お国訛(なま)りを嗤(わら)われて なんど楽屋で泣いたやら 浮かぶふるさと あの山小川 飾る錦が男の誓い 今宵 血を吐く寒稽古(かんげいこ)  泣いて別れたあの人に 熱い想いを通わせて 島の娘の黒髪恋し 唄うおけさも米若ぶしに 乗せて出世の 佐渡情話  佐渡へ佐渡へと草木もなびく 佐渡は居よいか住みよいか 唄で知られた 佐渡ヶ島 寄せては返す浪の音 立つや鴎か群千鳥 浜の小岩に佇(たたず)んで 若き男女の語り合い  晴れの舞台に七彩(いろ)の 夢を呼ぶよな名調子 恋の四十九里 たらいの舟も 今は昔よ お光と吾作 涙 輝やく 金屏風(びょうぶ)
元禄名槍譜 俵星玄蕃GOLD LYLIC島津亜矢GOLD LYLIC島津亜矢北村桃児長津義司槍は錆びても 此の名は錆びぬ 男玄蕃の 心意気 赤穂浪士の かげとなり 尽す誠は 槍一筋に 香る誉れの 元禄桜  姿そば屋に やつしてまでも 忍ぶ杉野よ せつなかろ 今宵名残りに 見ておけよ 俵崩しの 極意の一手 これが餞(はなむ)け 男の心  涙をためて振り返る そば屋の姿を呼びとめて せめて名前を聞かせろよと 口まで出たがそうじゃない 云わぬが花よ人生は 逢うて別れる運命とか 思い直して俵星 独りしみじみ呑みながら 時を過ごした真夜中に 心隅田の川風を 流れてひびく勇ましさ 一打ち二打ち三流れ あれは確かに確かにあれは 山鹿流儀の陣太鼓。  「時に元禄十五年十二月十四日、 江戸の夜風をふるわせて、 響くは山鹿流儀の陣太鼓、しかも一打ち二打ち 三流れ、思わずハッと立ち上がり、 耳を澄ませて太鼓を数え、おう、 正しく赤穂浪士の討ち入りじゃ、 助太刀するは此の時ぞ、 もしやその中にひるま別れた あのそば屋が居りわせぬか、 名前はなんと今一度、 逢うて別れが告げたいものと、 けいこ襦袢(じゅんばん)に身を固めて、 段小倉の袴、股立ち高く取り上げし 白綾たたんで後ろ鉢巻き眼のつる如く、 なげしにかかるは先祖伝来、 俵弾正鍛えたる九尺の手槍を右の手に、 切戸を開けて一足表に踏み出せば、 天は幽暗地は凱々たる白雪を 蹴立てて行く手は松坂町…」  吉良の屋敷に来て見れば、 今、討ち入りは真最中、 総大将の内蔵之助(くらのすけ)。 見つけて駆け寄る俵星が、 天下無双のこの槍で、 お助太刀をば致そうぞ、 云われた時に大石は 深き御恩はこの通り、 厚く御礼を申します。 されども此処は此のままに、 槍を納めて御引上げ下さるならば有難し、 かかる折しも一人の浪士が雪をけたてて サク、サク、サク、サク、 サク、サク、サク、――、  『先生』 『おうッ、そば屋か』  いや、いや、いや、いや、 襟に書かれた名前こそ、 まことは杉野の十兵次殿、 わしが教えたあの極意、 命惜しむな名をこそ惜しめ、 立派な働き祈りますぞよ、 さらばさらばと右左。 赤穂浪士に邪魔する奴は何人(なにびと) たりとも通さんぞ、 橋のたもとで石突き突いて、 槍の玄蕃は仁王立ち。  打てや響けや 山鹿の太鼓 月も夜空に 冴え渡る 夢と聞きつつ 両国の 橋のたもとで 雪ふみしめた 槍に玄蕃の 涙が光る
出世佐渡情話三波春夫三波春夫北村桃児長津義司お国訛りを嗤われて なんど楽屋で泣いたやら 浮かぶふるさと あの山小川 飾る錦が男の誓い 今宵 血を吐く寒稽古  泣いて別れたあの人に 熱い想いを通わせて 島の娘の黒髪恋し 唄うおけさも米若ぶしに 乗せて出世の 佐渡情話  佐渡へ佐渡へと草木もなびく 佐渡は居よいか住みよいか 唄で知られた 佐渡ヶ島 寄せては返す浪の音 立つや鴎か群千鳥 浜の小岩に佇んで 若き男女のアー語り合い  晴れの舞台に七彩の 夢を呼ぶよな名調子 恋の四十九厘 たらいの舟も 今は昔よ お光と吾作 涙輝やく 金屏風
人力一代三波春夫三波春夫北村桃児長津義司廻るくるまに 男の夢を 乗せて明治の 街を行く 人力一代 恋も情けも 仕事の邪魔と 笑う瞳に 涙が光る  浮世はぐるま 何故何故合わぬ 破れ障子に 秋の月 人力一代 江戸の名残りの 馬場先門に 走るひびきは 時代の響き  人の噂を 気にする様じゃ 花も咲かなきゃ 実も成らぬ 人力一代 可愛い伜の 制服姿 晴れておやじが 乗せて引く
高田屋嘉兵衛三波春夫三波春夫北村桃児いずみたく国は何処かと聞かれたら 日本人だと 胸を張る 男、高田屋嘉兵衛どん 此処はエトロフ千島の沖で 波の飛沫を受けて立つ  「ロシアの艦長さん、如何にもあなたがたの上官ゴロヴニン中佐は、 松前藩の役人衆の手に捕らえられました。 それは何故だかご存知でございましょう、あなたがたがエトロフ島に 不法上陸をなされ剰え発砲騒ぎをおこされたからでござります。 若しどうしても中佐を帰して欲しいと仰有るなら今後ロシアのお国が、 エトロフやクナシリには決して手出しをしないとお誓いなされ、 さすりゃ高田屋嘉兵衛、命にかえても将軍さまにかけ合って進ぜましょう。 はばかり乍らこのエトロフは、この高田屋が開拓をした島でござります。 いいえ、さ!日本の領土でござりますわい。」  顔は笑っているけれど 度胸千両の瞳の光り 男、高田屋嘉兵衛どん 捕えられても首斬られても 日本の領土は渡されぬ  「おう、お前達よ元気じゃったか、一年半ぶりじゃのう、 儂はロシアの牢屋につながれている時、 しみじみ国の淡路や函館が恋しかったわい、しかしロシアがあやまりを 認める迄は儂は死んでも帰らぬと頑張った、 さあ、これで日本とロシアの紛争も治まった、 これからは皆大きな顔して海の仕事に精がだせるぞよ」  花の明治にさきがけて 港 函館 春を呼ぶ 男、高田屋嘉兵衛どん 夢は故郷の淡路の島か 月の鳴戸のうず汐か
縞の合羽に三度笠三波春夫三波春夫北村桃児伏見竜治峠7里の 夕焼け空を 縞の合羽に 三度笠 親が恋しゅうて 泣きたい時は 長脇差(ドス)を抜きたくなるんだぜ 「チェッ 調子がでねぇや」 バカはお止しと 言うように 白い蝶々が 手に止まる  独(ひと)り咲いてる 紅山百合(やまゆり)に 足が止まるよ 三度笠 聞いてくれるか 身の上話 野暮な男の 故郷(くに)の歌 「チェッ しけてやがらア」 月が出そうな あの山に 雨をはらんだ 雲が飛ぶ  何処(どこ)で終わるか 浮世の旅を 縞の合羽に 三度笠 恨みつらみは さらりと捨てて 明日の命を さいころに 「ヘン 一寸先ア闇だ!」 泣くも笑うも 旅の空 義理も人情も 風任せ
虹を掴む男三波春夫三波春夫北村桃児佐藤川太男一代 勝負とかけて 生命燃やした この仕事 夢は七彩 虹のいろ 思い切り 手を伸ばせ 両手の中に 虹を 虹を掴むのだ  男ひとりが 勝負とかけて 生命燃やした 恋もある 乙女ごころは 虹のいろ 思い切り 手を伸ばせ 心の中に 虹を 虹を掴むのだ  男一代 勝負とかけて 目指す港に この船出 海は七つの 虹のいろ 思い切り 手を伸ばせ 両手の中に 虹を 虹を掴むのだ
駿府のれん太鼓三波春夫三波春夫北村桃児伏見竜治品(しな)が悪けりゃ 売りませぬ それがのれんの 心意気 駿河よいとこ よい茶の香り 富士に恥じない 力を込めて のれん太鼓の のれん太鼓の 乱れ打ち  客の心が 掴めなきゃ 店ののれんは 守れない 辛い修行の 涙の花が 実るみかんの 段々畑 のれん太鼓が のれん太鼓が なつかしや  親の心を 子や孫が ついだのれんの 尊さよ 夢を呼ぶよな あの枹さばき 富士がそびえる 東海道に のれん太鼓が のれん太鼓が 鳴り渡る
赤い椿と三度笠三波春夫三波春夫北村桃児遠藤実花がひと片 夜風に落ちた 抱いておくれと 笠の上 こんなやくざにゃ お寄りなさんな 洗い流せぬ 身の錆に 俺も泣きたい 旅ぐらし  赤い椿の 身の上話し 聞けば俺らも ついほろり 縞の合羽に 抱いてた夢は 脇差も要らなきゃ 名も要らぬ せめて堅気に 戻りたや  無理に通れば 白刃の雨が 俺の行手に 降りかかる ままよ地獄の 峠を越えて 花の手を引く 旅発(だ)ちに 被り直した 三度笠
俺は藤吉郎三波春夫三波春夫北村桃児遠藤実何時(いつ)も 温かな 心でいたい 何時も 命を 燃やしていたい 雲の彼方に 夢かけて 駒よ 駒よ いなゝけ 俺は藤吉郎  恋に一度は 泣いてもみたい 想う 花なら 抱いてもみたい 辛い この世で あればこそ 共に 共に ゆこうよ 俺は 藤吉郎  母の泪を 大事にしたい 人の倖せ 守ってやりたい 建てゝみせよう 城一つ 男 男 なりゃこそ 俺は 藤吉郎
豪商一代 紀伊国屋文左衛門島津亜矢島津亜矢北村桃児長津義司惚れた仕事に 命をかけて 散るも華だよ 男なら 怒濤逆巻く 嵐の中を 目指すは遙か 江戸の空 花の文左の みかん船  肝の太さと 度胸の良さに 勇み集まる 十二人 力合せて 乗り出す船は これも故郷の 人の為 征くぞ夜明けの 和歌の浦  浜辺に送る妻や子が、別れを惜 しんで呼ぶ声も風に悲しく千切 れとぶ、まして文左の新妻は、今 年十九のいじらしさ、 せめても一度もう一度、背伸びし ながら手を振れど、雨と嵐にさ えぎられ、かすむ良人(おっと)の後ろ影、 これが別れになりゃせぬか、女心 の切なさよ。  「白装束に身を固め、梵天丸に乗り 移った文左衛門。 時に承応元年十月二十六日の朝ま だき。此の時、遥か街道に駒のいな なき、蹄の音は、連銭芦毛に鞭打っ て、パッ、パッ、パッパッパッパー。 馬上の人は誰あろう、歌に名高き玉 津島明神の神官、高松河内。可愛い 娘の婿どのが、今朝の船出の餞けと、 二日二夜は寝もやらず、神に祈願を こめました。 海上安全守りの御幣、背中にしっか りとくくりつけ、嵐の中を歯を喰いし ばり親の心の有り難さ。婿どのイヤ 待ったと駆けつけた。」  涙で受取る文左衛門。 未練心を断つように、波切丸を 抜き放ち、切ったとも綱、大碇は、 しぶきを上げて海中へ、ザ、ザ、ザ、 さぶん――。 眺めて驚く船頭に、せくな騒ぐ な此の船は、神の守りの宝船じゃ。 張れよ白帆を巻き上げよ、船は 忽ち海原へ、疾風の如く乗り出す。 寄せくる波は山の様、嵐はさな がら息の根を、止めんばかりの凄 まじさ、舳(へさき)に立った文左衛門は、 両の眼をらんらんと、刀を頭上 に振りかざし、無事に江戸まで、 八大竜王守らせ給えと念じつつ、 熊野の沖や志摩の海、遠州相模 の荒灘も、男一代名をかけて、乗 り切る文左のみかん船。  沖の暗いのに白帆がサー見ゆる あれは紀の国ヤレコノコレワイノサ みかん船じゃエー  八重の汐路に 広がる歌が 海の男の 夢を呼ぶ 花のお江戸は もうすぐ近い 豪商一代 紀伊国屋 百万両の 船が行く
元禄男の友情 立花左近島津亜矢島津亜矢北村桃児佐藤川太忍ぶ姿の 哀れさに 真、武士なら 泣かずに居よか 時は元禄 ゆく春に 咲くも華なら 散るも華 男立花 名は左近  松の並木に 灯がゆれて 今宵泊は 鳴海の宿(しゅく)か 夢は遥かな 江戸の空 めぐり合わせの 糸車 誰が解くやら つなぐやら  「何んとこの宿に、立花左近が泊まってい る?黙れ!吾こそは、まこと九條関白の名 代として江戸は、東叡山寛永寺に献上の 品々を宰領(さいりょう)して東へ下る、立花左近じゃ。 えゝッ、その曲者(くせもの)のもとへ案内(あない)を致せ。」  音に名高き東海道 鳴海の宿の日暮れ時 本陣宿の玄関を 足音荒く踏み鳴らし 奥の座敷へ進みゆき ガラリと開けた大襖 ハッと思わず立花が 目を見晴らすも無理じゃない 去年三月十四日 松の廊下の刃傷(にんじょう)で 家は断絶身は切腹 無念の涙のみながら 散った浅野の定紋が 荷物の上に掛けてあり 左近と名乗る曲者(くせもの)の 羽織の紋はありゃ確か二つ巴じゃ おう、この人が内蔵之助 仇(あだ)を討つ日が近いのか 東下りの行列は 夜討ち道具を運ぶのか じっと見つめる立花左近 見返す大石内蔵之助 物は言わねど両の目に 滲む涙が万感の 想いとなってほとばしる 武士の辛さも哀れさも 知っていますぞ 男、同士の胸の裡(うち)。  「あゝ恐れ入りましてござりまする、お名 前をかたりましたる罪はお許し下され。 さて、この目録はすでに拙者に要のない 品、関白殿下直筆のこの御書状をお持 ちになれば、関所、宿場も無事にお通り なさるゝでござりましょう。 江戸へ下った暁は目指す仇(かたき)を討ち晴ら し、あ、いやいや、目出度く務めを果たさ れまするようお祈り致しておりますぞ。」  罪を破って 爽やかな 笑顔残して 去りゆく左近 哭いて見送る 内蔵之助 庭の紅葉の 霜白く 月は明かるく 冴え渡る  時は来にけり十二月 十と四日の雪のよる 勇む四十七人が 目指すは本所吉良屋敷 山道だんだら火事羽織 白き木綿の袖じるし 山と川との合言葉 表門から二十と三人 裏門よりも二十と三人 総大将は内蔵之助 殿の無念と武士(もののふ)の 意地と天下の政道(せいどう)を 正さんものと火と燃えて 打つか山鹿の陣太鼓 今は本所の侘住居(わびずまい) 貧乏ぐらしはしていても 心は錦の立花は 遠く聞こゆる太鼓の音に 布団をけって立ち上り 耳を澄ませて指を折り あれは確かに山鹿流 広い日本で打つ者は 松浦肥前の御隠居か 千坂兵部か後(あと)一人 播州赤穂の大石じゃ 今宵はたしか十四日 さてこそ殿の命日に 討入りしたか内蔵之助 よくぞやったぞ 嬉しいぞ 膝を叩いてほめながら 哭いた左近の横顔に 雪が降ります ハラハラと 雪が降ります ハラハラと。
決闘高田の馬場島津亜矢島津亜矢北村桃児山倉たかし江戸は夕焼け 灯(ひ)ともし頃に 夢を求めて みなし子が 国の越後の 空を見る 顔も赤鞘(あかざや) 安兵衛が 何時か覚えた 酒の味  喧嘩するなら 相手になろうか 俺は天下の 素浪人 真(まこと)武士なら 男なら やると決めたら 安兵衛は 行くぞ白刃の 只中へ  のり屋のばあさんが差出した 手紙を開く 中山安兵衛 急ぎしたため参らせ候 堀内源左衛門先生 道場で深く知り合い 叔父甥の 義を結んだるこの菅野 引くにひけない 武士の意地 村上兄弟一門と 高田の馬場で果し合い 六十すぎた拙者には 勝目は一つも御座無く候 後に残れる妻や子を お願い申す安兵衛殿 文武秀れたそなたじゃが 酒をつゝしみ身を修め 天晴れ出世なさるよう 草葉の陰から祈り参らせ候と 涙で書いた遺言状  「ばあさん!今何ん刻だ! 何に!辰の下刻かうーむ 高田の馬場まで後半刻 南無や八幡大菩薩 此の安兵衛が 行きつくまでは叔父の身の上守らせ 給え!ばあさん水だ! 水を呉れ!」  関の孫六わし掴み 牛込天竜寺竹町の 長屋を飛出す安兵衛は 小石をけとばし砂巻き上げて 宙飛ぶ如く駆けてゆく 此れを眺めた大工に左官 床やも 八百やも 米やのおやじも 魚やも それゆけ やれゆけ 安さんが大きな喧嘩を見つけたぞ 今夜はタラフク呑めそうだ 後から後から付いて行く 一番後からのり屋の婆さん 息を切らして ヨイショコラショ ヨイショコラショ 安さん安さん!! 喧嘩は止しなとかけてゆく  高田の馬場に来てみれば 卑怯未練な村上一門 わずか二人を取り囲み 白刃揃えて斬りかゝる 哀れ菅野と 若党は次第次第に追いつめられて すでに危うく見えた時 馬場に飛込む安兵衛が 関の孫六抜く手も見せず 村上三郎斬り捨てゝ 天にも轟く大音声(おんじょう) 中山安兵衛武庸が 叔父の菅野に助太刀致す 名乗りをあげて さあ来いと脇差抜いて 左手に天地に構えた二刀流 右に左に斬り捲くる 折しも叔父の背後(うしろ)から薙刀(なぎなた)持って 祐見が 斬り下ろさんとした時に 撥止投げた脇差が 背中を貫き見事倒した有様は さながら 鬼神か天魔の業か かたずを呑んで 見ていた群集 どっとあげたる歓声が 高田の馬場にこだまする  剣がきらめく 高田の馬場に 桜吹雪が舞いかかる 勝って驕(おご)らぬ 爽やかさ 花の青年 安兵衛の 顔に明るい 春の風
世界平和音頭三波春夫三波春夫北村桃児春川一夫ハアー 世界は一つよ 地球は丸い 丸い心で 両手をつなぐ つなぐその手に 花が咲き 夢も咲きます チョイト 和やかな ラララ ララララ ランララ ラララ ララララ ランララ 夢も咲きます 和やかな  ハアー お国が変われば 言葉も違う 違う言葉がどうして解る 西と東の 恋人も 同じみ空の チョイト 月を見る ラララ ララララ ランララ ラララ ララララ ランララ 同じみ空の 月を見る  ハアー 皆んなが揃えば 踊りもはずむ 歌はかずかず 希望は一つ 世界平和の 国造り 交す笑顔に チョイト 朝が来る ラララ ララララ ランララ ラララ ララララ ランララ 世界平和の 朝が来る
百年音頭三波春夫三波春夫北村桃児三波春夫ヤンレ百年 ヨイトヨイトヨイト サ 一つ二つと積み重ね よくぞ此処まで ドント 築いた市(まち)よ 長い歴史の山坂遥か 花の咲く日も 嵐の夜も 夢を創って 越えて来た ドドンと百年 ドドンと百年 共に栄えて 和やかに  ヤンレ百年 ヨイトヨイトヨイト サ 一人二人と 寄り添うて よくぞ拓いた ドント愛する市(まち)よ 人と人との出逢いが楽し 恋の歓び 泪の愛も まちの並木が 知っている ドドンと百年 ドドンと百年 共に栄えて 美しく  ヤンレ百年 ヨイトヨイトヨイト サ 海の幸やら山の幸 祭り楽しや ドント 豊かな市(まち)よ 春夏秋冬彩とりどりに 泣いた笑った 想い出こめて 愛し恋しい街灯り ドドンと百年 ドドンと百年 共に栄えて 華やかに  ヤンレ百年 ヨイトヨイトヨイト サ 朝な夕なに仰ぎ見た 市(まち)のシンボル ドント 心の支え ここはふるさと 倖せ呼んで 広い世界と 未来をつなぎ 人の心を つなぐ市(まち) ドドンと百年 ドドンと百年 共に栄えて 新しく
花の音頭三波春夫三波春夫北村桃児市川昭介花の 花の音頭で ヨーイトサ (アラ ヨーイトサ) 花が咲いたら 踊ろじゃないか 花の姿を その儘に 花の心で 和やかに (ハァ ヨイショ) 歌と囃子は 真ん中で 踊りゃ 大きな 輪が出来る ソレ 和が出来る  花の 花の音頭で ヨーイトサ (アラ ヨーイトサ) 梅か 桜か ぼたんか 藤か 黄菊 白菊 曼珠沙華 可愛い あの娘は 桃の花 (ハァ ヨイショ) 歌と囃子は 真ん中で 踊りゃ 大きな 輪が出来る ソレ 和が出来る  花の 花の音頭で ヨーイトサ (アラ ヨーイトサ) めぐる季節に 色美しく 咲いてほゝえむ 花の様に 何時も 心を 燃やしたい (ハァ ヨイショ) 歌と囃子は 真ん中で 踊りゃ 大きな 輪が出来る ソレ 和が出来る  花の 花の音頭で ヨーイトサ (アラ ヨーイトサ) 花の盛りは 短かいけれど 種を残して 春を待つ 私ァ 貴方を 今宵待つ (ハァ ヨイショ) 歌と囃子は 真ん中で 踊りゃ 大きな 輪が出来る ソレ 和が出来る
スポーツ音頭三波春夫三波春夫北村桃児中野安博ハァー 思い切り ソレ 両手振れ振れ足音高く 昇る朝日にお早うさん ソレ 父さんも ホラ 母さんも 1234! 5678! スポーツ スポーツ みんな一緒にドドントネ ドドントネ  ハァー たくましく ソレ 顔がほころぶ仲間がふえて 桜日本の国造り ソレ 君と僕 ホラ貴方もね 1234! 5678! スポーツ スポーツ みんな一緒にドドントネ ドドントネ  ハァー 花も咲く ソレ 年の事など忘れてやるさ 何んのまだまだ負けられぬ ソレ 祖父ちゃんも ホラ 祖母ちゃんも 1234! 5678! スポーツ スポーツ みんな一緒にドドントネ ドドントネ  ハァー 大空へ ソレ 夢が飛ぶ飛ぶ若さがおどる 胸に明るい虹の色 ソレ 小父さんも ホラ小母さんも 1234! 5678! スポーツ スポーツ みんな一緒にドドントネ ドドントネ
元禄男の友情 立花左近三波春夫三波春夫北村桃児佐藤川太忍ぶ姿の 哀れさに 真、武士なら 泣かずに居よか 時は元禄 ゆく春に 咲くも華なら 散るも華 男立花 名は左近  松の並木の 灯がゆれて 今宵泊りは 鳴海の宿か 夢は遥かな 江戸の空 めぐり合わせの 糸車 誰が解くやら つなぐやら  (左近) 「何とこの宿に、立花左近が泊っている? 黙れ!! 吾こそは、まこと九條関白の名代として 江戸は、東叡山寛永寺に献上の品々を宰領して東へ下る、 立花左近じゃ。えゝッ、その曲者(くせもの)のもとへ案内を致せ」  音に名高き東海道 鳴海の宿の日暮れ時 本陣宿の玄関を  足音荒く踏み鳴らし 奥の座敷へ進みゆき ガラリと開けた大襖(ふすま) ハッと思わず立花が 目を見張すも無理じゃない 去年三月十四日 松の廊下の刃傷(にんじょう)で 家は断絶身は切腹 無念の涙のみながら 散った浅野の定紋が 荷物の上に掛けてあり 左近と名乗る曲者(くせもの)の 羽織の紋はありゃ確か二つ巴(どもえ)じゃ おう、この人が内蔵之助 仇を討つ日が近いのか 東下りの行列は 夜討ち道具を運ぶのか じっと見つめる立花左近 見返す大石内蔵之助 物は言わねど両の目に 滲む涙が万感の 想いとなってほとばしる 武士の辛さも哀れさも 知っていますぞ 男、同志の胸の裡(うち)  (左近) 「あゝ恐れ入りましてござりまする、 お名前をかたりましたる罪はお許し下され。 さて、此の目録はすでに拙者に要のない品、 関白殿下直筆のこの御書状をお持ちになれば、関所、 宿場も無事にお通りなさるゝでござりましょう。 江戸へ下った暁は目指す仇を討ち晴し、 あ、いや、いや、目出度く務を果たされまするよう お祈り致しておりますぞ」  罪を被(かぶ)って 爽やかな 笑顔残して 去りゆく左近 哭(な)いて見送る 内蔵之助 庭の紅葉の 霜白く 月は明かるく 冴え渡る  時は来にけり十二月 十と四日の雪のよる 勇む四十七人が 目指すは本所吉良屋敷 山道だんだら火事羽織 白き木綿の柚じるし 山と川との合言葉 表門から二十と三人 裏門よりも二十と三人 総大将は内蔵之助 殿の無念と武士の 意地と天下の政道を 正さんものと火と燃えて 打った山鹿の陣太鼓 今は本所の侘住居(わびずまい) 貧乏ぐらしはしていても 心は錦の立花は 遠く聞ゆる太鼓の音に 布団をけって立上り 耳を澄ませて指を折り あれは確かに山鹿流 広い日本で打つ者は 松浦肥前の御隠居か 千坂兵部か後一人 幡州赤穂の大石じゃ 今宵はたしか十四日 さてこそ殿の命日に 討入りしたか内蔵之助 よくぞやったぞ 嬉しいぞ 膝を叩いてほめながら 哭いた左近の横顔に 雪が降ります ハラハラと 雪が降ります ハラハラと
人生おけさ三波春夫三波春夫北村桃児長津義司何をくよくよ 明日があるさ 肩を叩いて 酒場の隅で 涙忘れて しみじみと のんで語ろか 人生おけさ 捨てちゃならない その夢だけは  荒いこの世の 波風うけて 浮いて沈んで 沈んで浮いて 何処の港に 着くのやら 勝つも負けるも 人生おけさ 波にまかせて ゆこうじゃないか  独り陽かげに 咲く花みれば 思い出すのさ 故郷の母を 夢も侘しい 裏町で 泣くも笑うも 人生おけさ 何をくよくよ 明日があるさ
俵星玄蕃PLATINA LYLIC三波春夫PLATINA LYLIC三波春夫北村桃児長津義司槍は錆びても 此の名は錆びぬ 男玄蕃の 心意気 赤穂浪士の かげとなり 尽す誠は 槍一筋に 香る誉れの 元禄桜  姿そば屋に やつしてまでも 忍ぶ杉野よ せつなかろ 今宵名残に 見ておけよ 俵崩の 極意の一と手 これが餞け 男の心  涙をためて振り返る そば屋の姿を呼びとめて せめて名前を聞かせろよと 口まで出たがそうじゃない 云わぬが花よ人生は 逢うて別れる運命とか 思い直して俵星 独りしみじみ呑みながら 時を過ごした真夜中に 心隅田の川風を 流れてひびく勇ましさ 一打ち二打ち三流れ あれは確かに確かにあれは 山鹿流儀の陣太鼓  「時に元禄十五年十二月十四日、 江戸の夜風をふるわせて、響くは山鹿流儀の陣太鼓、 しかも一打ち二打ち三流れ、思わずハッと立ち上がり、 耳を澄ませて太鼓を数え「おう、正しく赤穂浪士の討ち入りじゃ」 助太刀するは此の時ぞ、もしやその中にひるま別れたあのそば屋が 居りあわせぬか、名前はなんと今一度、 逢うて別れが告げたいものと、 けいこ襦袢に身を固めて、段小倉の袴、股立ち高く取り上げし、 白綾たたんで後ろ鉢巻眼のつる如く、なげしにかかるは先祖伝来、 俵弾正鍛えたる九尺の手槍を右の手に、 切戸を開けて一足表に出せば、 天は幽暗地は凱々たる白雪を蹴立てて行手は松阪町…」 「吉良の屋敷に来てみれば、今、討ち入りは真最中、 総大将の内蔵之助。 見つけて駆け寄る俵星が、天下無双のこの槍で、 お助太刀をば致そうぞ、 云われた時に大石は深き御恩はこの通り、厚く御礼を申します。 されども此処は此のままに、 槍を納めて御引上げ下さるならば有り難し、 かかる折りも一人の浪士が雪をけたてて サク、サク、サク、サク、サク、サクー、 『先生』『おうッ、そば屋か』 いや、いや、いや、いや、襟に書かれた名前こそ、 まことは杉野の十兵次殿、わしが教えたあの極意、 命惜しむな名おこそ惜しめ、立派な働き祈りますぞよ、 さらばさらばと右左。赤穂浪士に邪魔する奴は何人たりとも 通さんぞ、橋のたもとで石突き突いて、槍の玄蕃は仁王立ち…」  打てや響けや 山鹿の太鼓 月も夜空に 冴え渡る 夢と聞きつつ 両国の 橋のたもとで 雪ふみしめた 槍に玄蕃の 涙が光る
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