軍曹は僕にとって親友だった。

 2023年4月12日に“idom”が2nd EP『EDEN』をリリース!よりidomらしさにこだわって制作したという今作。リード曲「EDEN」は、楽曲制作風景がidomのTikTokで公開されており、ChillでエモいけどノれるChill Houseな楽曲に仕上がっております。他にも様々な魅力を詰め込んだ2nd EP。idomの新たな魅力を感じさせてくれること間違いなし!
 
 さて、今日のうたコラムでは、そんな最新作を放った“idom”による歌詞エッセイを3週連続でお届け。今回は第2弾です。綴っていただいたのは、今作の収録曲「Memories」にまつわるお話。家族との別れ、恋人との別れ、友との別れ…。今、大切な誰かとの別れの痛みのなかにいるあなたへ。この歌詞とエッセイが届きますように。



3年前。
春の訪れに皆が胸を膨らませる頃。パンデミックという未曾有の危機が僕たちを襲っていた。誰もが先の見えない不安の中、新たな生き方を模索した時期だろう。
 
僕はというと、大学卒業後イタリアでやりたかったデザインの仕事がパンデミックの影響で就けなくなり、「イタリアに行けるようになるまでの間の仕事探さないとな…」なんて思いながらも、意外にも呑気に過ごしていた。もちろん不安も抱えていたけれど、きっとなんとかなるだろうと、軽く考えるようにしていた。
 
そんな僕の家から歩いて5分ほどのところに「軍曹」と呼んでいる友人が住んでいた。何故あだ名が軍曹なのかはさておき。彼は春から建築の大学院に行くことに。他の仲間たちは大学卒業後に町から離れ、残ったのは職探し中の僕と大学院に行く彼だけ。日中行く場所のない僕は暇さえさえあれば彼の家に転がり込んでいた。「仕事がないなら大学院で一緒に遊ぼうぜ」なんていってくる彼は、居心地の良い奴だった。
 
どこに行くにも一緒で、ラーメンを食べるためだけに片道2時間ドライブしたり、一晩中一緒にテレビゲームをしたり、旅行したり…。それからデザインと建築の夢も沢山語り合った。
 
何でもない日々も彼といると楽しかった。これから先続く人生でも、きっと同じように2人でバカするんだろうなと思っていた。
軍曹は僕にとって親友だった。
 
 
よく雨の降る日だった。
桜木に残っていた花びらは殆ど道に落ちていた。
そんな日の夜、一本の電話が鳴った。
仲の良い大学時代の友人からだ。
 
「軍曹が死んだらしい」
 
電話越しの友人の震える声が、窓の外の雨音をかき消すように響いた。僕は電話を静かに切って、その言葉を嘘だと確かめるために、傘もささずに玄関を飛び出し、彼の家へと向かった。出るはずのない電話をかけながら土砂降りの夜道を全力で走った。
 
 
その日から何もかもが変わってしまった。
職探しなんてものは辞めてしまったし、胸の痛みを紛らわすために、なんとなく空元気でやった事のない音楽を始めてみた。
軍曹が病に倒れたあの日、いつものように家に転がり込んで、異変に気づけていたらと後悔も沢山した。
 
何日か経って彼が住んでいた家が取り壊されるかもしれないと聞いて、僕はその場所に何とか住まわせてもらう事にした。彼との思い出が詰まった場所が無くなることが怖かったのだと思う。
 
心の中ではあの日の雨が降り続いていて、忘れたくない彼との愛すべき日々さえ、忘れられたらどれほど楽だろうかと思うこともあった。
 
そして現在。
あれから3年が経ち、あの頃思い描いていた未来とは随分違う日々を歩んでいる。
今でも彼に対する親友としての愛情は変わらない。
僕の原動力であり、僕が進むべき道を彼が示してくれていると信じている。
きっとこの先も彼は僕にとって1番の親友で、彼との思い出がこれからも僕を支えてくれると思う。
前に進み続ける事を彼が望んでいると僕は知っている。
 
誰にでも大切な人との別れは訪れうる。
それは家族との別れかもしれないし、恋人との別れかもしれないし、友との別れかもしれない。
大切な人との別れはどんなものでも辛く悲しい。その痛みを乗り越えることは容易ではない。
そんな時この曲が、前を向こうとする誰かの心を少しでも支えられたら嬉しい。
 
僕たちは今日も歩き続けてる。
愛しい思い出たちを胸に抱きながら。
 
idom



◆紹介曲「Memories
作詞:idom
作曲:idom

◆2nd EP『EDEN』
2023年4月12日発売
初回生産限定盤 SECL-2855~2856 ¥1,800(税込)
通常盤 SECL-2857 ¥1,400(税込)
 
<収録曲>
1.EDEN
2.Memories
3.Control
4.Loop
5.GLOW -English ver.-