朝月夜について

 2024年8月28日に“藤田麻衣子”が新曲「朝月夜」を配信リリースしました。タイトルは、夏の終わりから秋にかけての、空に白く月が残っている明け方の様子。想いの届かぬ相手への不安や葛藤、弱気と勇気、抑えきれない愛おしさなどの心の揺れを、美しくも切ないメロディーに乗せ歌った“これぞ藤田麻衣子の真骨頂”といえる作品となっております。
 
 さて、今日のうたではそんな“藤田麻衣子”による歌詞エッセイをお届け!綴っていただいたのは、新曲「朝月夜」にまつわるお話です。夜、無性に切なくなるこの季節にぴったりのラブソング。どのように生まれたのか、どんなところにこだわったのか。MV撮影秘話も明かしてくださいました。ぜひ歌と併せて、エッセイをお楽しみください。



「お盆を過ぎると一気に涼しくなるで」は、毎年決まって母が言う言葉だ。
 
さすがに近年はお盆が終わっても猛烈に暑いけれど、今年のお盆を過ぎた頃に夜窓を開けたら、虫の声がして涼しかった。夏から秋になっていくんだなと感じて、毎年恒例の「お盆を過ぎると一気に涼しくなるで」を思い出した。
 
涼しくなってくるこの季節、特に夜は無性に切なくなる。記憶に残っているのは、10代の時にこの夜の涼しさを感じて「なんだこの気持ちは」と思った時のこと。恋をした時に人は切なくなるけれど、逆に恋でもしないとなかなかこのキュッとした症状は現れない。夏の終わりや秋の夜にだけは、恋をしなくてもキュッとなれるのだ。
 
わけもなくキュッとなる時に恋でもしていたら、好きな人を思うたびに切なさMAXだと思う。そんなふうに、とにかく私は子どもの頃からときめきと切なさが大好きなのだ。
 
「朝月夜」の歌詞は何年も前から書いてあった。好きな人のことを考えていたら眠れなくて、気づけば明け方になっていた。明け方の空はまた特別だったりする。現代の私たちにも時々そんな夜があるし、遥か昔の人もきっと同じように空を見上げて切なくなっていたんだと思う。
 
1コーラスと最後のサビだけができていて未完成のまま、自分の中でとても大事な歌になっていた。このタイミングで形にしたい、と思う時がようやくきて、とても短い形でこのまま完成にするか、書き加えるか迷ったけれど、一度書き加える方向で挑戦してみることにした。
 
和風な楽曲なので、普遍的な情景で時代を感じない歌にしたいという思いもあり、いつの時代でも重なるような言葉を使った。
 
MVには月と湖を映したくて、群馬県に行き明け方に撮ってもらった。湖には無数のトンボがいて、頭や服、指先いろんなところにとまってくれた。天気予報でも現地についても雷雨だったけれど、明け方に撮影が始まると雨が上がってくれた。いいタイミングでトンボも指にとまってくれた。撮影はみんなのがんばりが報われた日になった。
 
音でも映像でも、この大切な「朝月夜」をみなさんに届けられることに心から感謝したい。
 
<藤田麻衣子>



◆紹介曲「朝月夜
作詞:藤田麻衣子
作曲:藤田麻衣子