ありがとう

 2023年5月24日に“藤田麻衣子”がニューアルバム『Color』をリリースしました。今までリリースしたオリジナルアルバムでは全曲の作詞・作曲を藤田麻衣子自身が手掛けていましたが、今作では自身の手による先行配信シングル「漆黒」、橋口洋平(wacci)が楽曲提供した「鏡よ鏡」、世界的に活躍するSUNNY BOYが作曲を担当した「シンプル」をはじめとした、他のミュージシャンからの提供曲、THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLSに提供した「always」のセルフカバーなど、全10曲が収録。
 
 さて、今日のうたコラムではそんな最新作を放った“藤田麻衣子”による歌詞エッセイを3日連続でお届け。今回が最終回です。綴っていただいたのは、今作の収録曲ありがとう」にまつわるお話。この歌詞を手掛けた柳田はるかさんとの出会い、ふたりの軌跡、そして藤田麻衣子自身の変化について明かしてくださいました。歌詞と併せて、エッセイを受け取ってください。



私ががんばろうと思うのは
子どもたちに
かっこいいお母さんだと
思ってほしいから
 
 
なんて素直で真っ直ぐで、胸を打つフレーズなんだろうと思う。全国のお母さん方、お父さん方は、こんな思いで毎日をがんばっているんじゃないだろうか…。この言葉を見た時、私はこのままメロディをつけたい、と思った。
 
Aメロでは、子どもの健気さと優しさに胸を打たれる。日記のような、自己紹介のようなこの歌詞は、全く同じような境遇ではなくても、重なる部分があったり、たくさんの人が勇気をもらえると思った。感動した一人である私と同じように。
 
 
この歌詞を書いたのは、テレビ番組『はじめてのおつかい』で出会った柳田はるかさん。彼女は目の病気の影響で視力が少しずつ失われてしまい、今は周囲に光を感じる程度だそう。
 
2017年8月に放送された24時間TVの中で、柳田はるさかんの娘さんの『はじめてのおつかい』が放送されて、オリジナル挿入歌で私の楽曲「素敵なことがあなたを待っている」が初めて流れた。
 
その後、ご家族でライブを観に来てくださって、私はなんだかとても話したい! と思いながらも、連絡先も聞けずさよならした。柳田はるかさんはその頃から、ギターの練習を始めていて、前向きに新しいことに挑戦している彼女と、いつか話してみたいとずっと感じていた。
 
2021年の1月に、『はじめてのおつかい』の中で、柳田はるかさんがご家族に向けて「素敵なことがあなたを待っている」を弾き語りしてくださっている姿が放送された。それを機に7月の名古屋でのライブにゲスト出演していただき、一緒に演奏することができた。
 
時々電話やLINEでお喋りするようになり、彼女も音楽活動をしていて楽曲作りの話もたくさんした。彼女の書いた歌詞を見せてもらったり、リリースに関係なく何か一緒に作ってみようかと話していた。「職業だから当たり前だけど、日頃はずっと仕事として作品をつくってるから、リリースとか関係なく一度ただ本気で遊びで作ってみたい」と、彼女にはどんどん本音で話せた。
 
彼女の日常の話は、私が聞いていると感動してしまうことが溢れていて、そのままエピソードや気持ちを書いたものが「ありがとう」の歌詞だった。
 
これを読んだ時の、私の衝撃といったら…。まず泣いた。いろんな場面が想像できたし、彼女の前向きさ、現実の捉え方、心がとても好きだと思った。私自身が勇気をもらったようなこの感覚を、きっと他の人も感じるはずだと。「この歌詞に曲をつけてみてもいいかな?」と、思わず言ってしまった。
 
「ありがとう」が出来上がって、彼女は自分のライブイベントで歌い始めた。私は何もできないけれど、何かできることはあるかな? と思い、彼女のいる愛知県は地元と近いということもあって、本格的ではないけれど簡単に歌を録音することならできるよと、田原市に遊びに行って彼女と歌を録音した。その後、その「ありがとう」の音源は田原市の写真たちを使ったリリックムービーと共にYouTubeにアップされた。
 
 
私自身が「新曲ができました」と、歌うような歌ではないけれど、時々いいタイミングがあればライブで「ありがとう」を歌えたらいいなと思った。客席で、この歌詞の前向きさに勇気づけられる人たちが見えるから。
 
ずっと私は自分で作詞作曲したものしかCDにしないと決めてきた。番外編でカバー曲はトライしたけれど、オリジナル曲は何がなんでも貫いてきた。理由は「思ってないことを歌いたくないから」…。私は私なりに、自分の歌にだけはなんというか、忠誠を誓っていた(笑)。いいと思わないのに、誰かに作ってもらった手前断れないなんていうことが、起きてしまったら。1曲でもそんなことが起きるのは許されなかった。本当に頑固(笑)。
 
ここまで全曲貫いてきて、そうじゃなくなるのは簡単だけれど、貫き続けられるのは時間をかけて守った人だけだと思うと、破りたくなかった。
 
でも「ありがとう」は、そんなことよりも、とにかくいい歌詞だった。私の歌を聴きにきてくれる人、客席のみなさんが力をもらってくれるのが見えると、ただ素直に歌いたいなと思った。
 
「私じゃなくても、誰が書いててもいいんだ。共感してるなら、感動してるなら、自分で書いてなくても自分の心でちゃんと歌えるんだ」と、頑なだった心を解いてもらったような気がした。
 
そんなことを思いながら、2022年に配信シングルを制作することになった。15周年を終えて、これからどんな歌を歌いたいのかゆっくり考えたいと思っていた時期。私は「曲を誰かに作ってもらって、歌詞は自分で書こうかな」と、スタッフに話した。
 
スタッフがびっくりしていた。あんなにもあんなにも頑なだった私が、そんなことを言うなんてと(笑)。
 
やがて「シンプル」が出来上がった。そして2023年のオリジナルアルバムは、自身の作詞作曲ではなく、いろんな人と制作してみようと決めた。共作もあるし、作詞だけ、作曲だけ、ボーカリストとして歌うだけのものも。そんなラインナップの中なら、自然と「ありがとう」も収録できると気づいて、柳田はるかさんに収録させてもらいたいとお願いした。
 
柳田はるかさんも、「ありがとう」を収録したCDを自分で作ってライブイベントで売り始めている。それぞれの場所で、この歌詞が今日も誰かに届いているんだと思うと、私はただただ嬉しい。
 
そして、私に新しい可能性や景色を見せてくれて「ありがとう」と、心から伝えたい。

藤田麻衣子>



◆紹介曲「ありがとう
作詞:柳田はるか
作曲:藤田麻衣子


◆メジャー7thオリジナルアルバム『Color』
2023年5月24日発売
 
<収録曲>
1. 漆黒
2. タンポポ
3. 戻りたい、もう戻れない
4. 鏡よ鏡
5. できるなら...
6. always 
7. 足音
8. 美女と野獣
9. ありがとう
10. シンプル