あたらよ
だから、私はあの頃の自分に約束した。
2025年10月8日に“あたらよ”がNew Mini Album『泡沫の夢は幻に』をリリースしました。今作には、「雫」「ツキノフネ」「忘愛」をはじめとした全8曲が収録。ジャケット写真は、タイトルの世界観が幻想的に表現され、朧げな夢のイラストが印象的で、空や水面は収録されている楽曲それぞれを象徴しております。
さて、今日のうたではそんな“あたらよ”のひとみによる歌詞エッセイを3回に渡りお届け。最終回は、収録曲「 溺れている 」にまつわるお話です。世界という大きな水槽のなか、大きな波に飲まれ、溺れてしまったあの頃。なんとか夜を乗り越えた今、思うことは…。ぜひ歌詞とあわせて、エッセイを受け取ってください。
この世界は大きな水槽だ。
みんなそれぞれが自分の役割を見つけ、沈まないよう必死に泳いでいる。
けれど数年前、私は大きな波に飲まれ、溺れてしまった。
それはあまりにも突然だった。昨日まで普通に泳げていたのに、急に足がもつれて息ができなくなってしまった。「もうやめにしよう」「早くここから出たい」「もうここには何も思い残すことはない」とそんなことばかりを考えていた。
今思えば、当時はまったく周りが見えていなかった。近しい人からどんな声や言葉をかけられても全く耳に入らず、とにかく放っておいてほしいという独りよがりな気持ちだけが私を支配していた。
そうしているうちに、遂にプツンと糸が切れ何もかも手放そうとした。その時、急にインターホンが鳴った。
「今から夜ご飯一緒に食べに行かない?」
友人からの誘いだった。
そのすぐ後に、今度はスマホが震えた。
「今何してるの~?」
唯一、頼れる人からの電話だった。
なんで今なんだろう。タイミングが悪すぎる。どうして。もう放っておいてくれたらそれで全て上手くいくのに。
そんな風に思っていた気がする。
そこからのことは正直あまり良く覚えていない。ただひたすら、私が進もうとしている道が間違っていることだけを淡々と諭された。私たちの主張が交わることはなく、ただ時間だけが過ぎていった。
そうして気づいた頃にはもう朝になっていた。
結果的に私はその夜を何とか生き延びた。一体どんなことがあってそうなったのか、未だに思い出せないけれど、大きな安堵感があったのは覚えている。
まだやれる。自分なら大丈夫。そう思う気持ちが強すぎたのか、自分が1番自分を許せなくなっていたのかもしれない。
だから、私はあの頃の自分に約束した。
もう同じ涙を流さなくていいように、「失敗作だった」なんて誰にも言わせないぐらい、今の人生を私が死ぬ気で生き抜いてみせると。
この曲はその決意表明であり、あの時泣いていた幼い私への手紙である。
<あたらよ・ひとみ>
◆紹介曲「 溺れている 」 作詞:ひとみ 作曲:ひとみ・Soma Genda
◆New Mini Album『泡沫の夢は幻に』
2025年10月8日発売
<収録曲>
01 朝凪
02 ツキノフネ
03 夜空を蝕んで
04 忘愛
05 溺れている
06 雫
07 しないで
08 夢現、夏風薫る