さて、今日のうたコラムではそんな最新作を放った“藤田麻衣子”による歌詞エッセイをお届け。綴っていただいたのは、ドラマのとあるセリフから始まるお話。恋に落ちることとは? 出会った瞬間に感じる“何か”とは? 数々のラブソングを生み出してきた彼女のならではのエッセイをご堪能ください。
~歌詞エッセイ:恋に落ちて~
先日ドラマを見ていたら、落ち込んだ主人公に、かっこいい相手役の人が「やっと笑った」と言っていた。ときめくシーンだった。
ふと、私にも昔、全く同じことを言ってくれた人がいたなぁと思い出した。そんな少女漫画みたいなセリフもさらっと似合う感じの人だった。確かにその時、嬉しいというかあったかい気持ちにはなったけれど、同時に、ん?とも思った。うじうじしている私を、笑顔にさせてくれようとしたのは嬉しいけれど、ということは、させるための間の会話は取り繕ってるというか、なんかそこには真実がなかったような気がして。
「ほら笑って」みたいなセリフが、少女漫画を読んでいる私は嫌いじゃないし、そこに素敵なシチュエーションや、好みのイケメンが描かれていたら確実にときめく。でも現実で、例えば「ほら笑って」と言われたら、無理して笑わなきゃいけないじゃないか。私はまだまだうじうじしたかったり、モヤモヤをぶつぶつ言いたかったり、ひょっとしたらぶちまけて叫びたかったりするかもしれない。それでスッキリしたらやっと笑えるのかもしれないのに。
私のペースではなく彼のペースで私を笑わせ、私はちょっと心がよじれたまま笑顔を見せて、端から見ればとてもいい感じの流れ。でも私の心は満たされない。これはもう相性や好みの問題でしかないんだけれども、やっぱりその人のことはいいなと思ったものの、好きにはなっていなかったような気がする(結局付き合ってはいなかったんだと思う)。
私は私のペースでいさせてくれる人が好きなのだ。彼とはS極とS極だった。好みは人それぞれだと思う。
惹かれ合った時はS極とN極だったのに、付き合っていてだんだんと、やっぱり同じ極だった人もいた。ただそうやって、別れたりしないと、次の人とも出会えないわけで、別れはその時は悲しいけれど、過ぎてみれば感謝だと思う。
話は戻って、「やっと笑った」だけで、こんなことをダラダラと書ける時点で、恋に落ちていなかったのだとわかる。
恋に落ちるのはほんの一瞬で、その人を知るたびもっと好きになっていくものだから。出会った瞬間から、好きー!!!ってなるわけではないけれど、「あれ?」という違和感がたぶん残るんだと思う。
ある研究では、人々がある人物を魅力的かどうか判断するのには0.5秒しかかからないことが分かったそうな。それは見た目の好みだから、必ずしもその先に恋をするわけではないのか?
いろんな人を好きになってきたけれど、本当にいい関係を築けた人ほど、付き合うまでにけっこう時間がかかった。恋だと気づくのにも時間がかかった。むしろ、恋に落ちたのはほんの一瞬ではなかった。でも今思うと、出会った瞬間のことはちゃんと思い出せる。だからやっぱり0.5秒は合ってるのかな?
こんなに現実的な考え方をしていたら、恋の歌なんか書けないと思う。でも書いてきたから、きっとこれからも書けるんだと思う。
あぁときめきをチャージしたい。ドラマでじゅうぶんだから。
<藤田麻衣子>
◆『15th Anniversary 弾き語りBest』
2021年3月3日発売
初回限定盤 VIZL-1875 ¥4,800+税
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