これは道徳に反したただの恋である。

 2022年10月19日に“FINLANDS”が新曲「like like」を配信リリースしました。産休に伴いライブ活動を一時休止していた塩入冬湖が出産後初めてリリースする新曲。「like」という言葉が意味する“誤魔化せない思い”を込めた、温かくも切なさを感じさせるラブソングに仕上がっております。なお11月にも新曲がリリースされることが決定しており、「like like」は2カ月連続リリースの第1弾として配信!
 
 さて、今日のうたコラムではそんな最新作を放った“FINLANDS”の塩入冬湖による歌詞エッセイを2カ月連続でお届け。今回は第1弾。綴っていただいたのは、新曲「like like」に通ずる想いです。「あなたが好き」と「りんごが好き」、本来は同じ英文にはならないけれど、時には、同じ動詞で誤魔化したくなるときはありませんか…?



この世は全部を美しくしたい。
美しいと思いたい。
美しく正しく溌剌と素直であり、
且つスムーズなものだと思いたいんだと思う。
 
だが、人間の心には不備が沢山ある。
持ち合わせてしまえば道徳に反するような思いが確かに存在する。
 
英語の授業で一番最初に習った動詞は「like」だった。
「私はりんごが好きです」
 
「私はあなたが好きです」は
「私はりんごが好きです」と同じ英文にはならない。
人は惨めにならない為の方法を大人になるとそれぞれが持ち合わせる。
それでも尚、同じ動詞じゃ誤魔化せずに惨めになる方を勇んで選ぶ時がある。
 
これは道徳に反した
ただの恋である。
ただの思いである。
 
美しくはなくとも、世の中の不都合であろうと、生まれたらすぐに排除される思いであろうと確かに存在するし、存在した恋がある。
人々は誰かを傷つけたいわけでも傷つきたいわけでもなく、生まれた心の置き場に苛まれ続けているだけなんじゃないだろうか。
 
誰かが、近年SNSや週刊誌に告発される不毛と言われる色恋沙汰の云々を見て「きっとみんな悲しいだけなんだよ」と言っていた。
 
やはり人の心には不備がある。
そして、この不備はこの先もなくならない。
悲しみは悲しみのままでいられない。
 
惚れた腫れた、愛した愛していない、愛されない愛しちゃいけないを繰り返してこの不備は突然生まれては人を苛ませる。
苛む人間はこの世の不都合であり、醜いものなのだろうか。
善悪を承知した上で生まれる不都合があるからわたしはずっと歌を歌うんじゃないだろうか。

<FINLANDS・塩入冬湖>



◆紹介曲「like like
作詞:塩入冬湖
作曲:塩入冬湖