2025年2月12日に“FINLANDS”が約4年ぶりとなるオリジナル・フルアルバム『HAS』をリリースしました。コロナ禍の時期も絶えること無くライブ活動を継続し、精力的にデジタルリリースを重ねてきたFINLANDS。今作には、この4年の間に遂げた、さらなる成長の姿を余すことなく詰め込んだ全12曲が収録されております。
さて、今日のうたではそんな“FINLANDS”の塩入冬湖による歌詞エッセイを3週連続でお届け。今回は第1弾です。綴っていただいたのは、収録曲「ララバイ」にまつわるお話。<わたし>の誕生日を覚えてくれなかった<あなた>。あなたの気持ちが知りたくて、あなたの真似をしてみて、わかったことは…。ぜひ、歌詞と併せて、エッセイを受け取ってください。
続編シーズンの主役はずっと変わらずあなたである。誰と恋愛に似たそれを実行している最中でもあなたが主役の物語の端っこに申し訳なさそうに、それでいて当たり前の顔している通行人役のようにわたしはいる。
あなたがわたしの誕生日を覚えられなかった理由が今ならわかってしまうことで理解に至ったその心の正体に悲しまずにはいられなかったし、冬のコートは煙草の煙と混ぜこぜになった人間の匂いが染み込んでいて頬にあたる度、その匂いが冬の匂いなんだとしっかりと着実に覚えていったし、その匂いがいい匂いかどうかなんてことは問題ではなく、その匂いは無条件に思い出の一端を担うのだから好きに決まっていた。
それくらいにあなたが発するものは思い出となり、それを好きか嫌いかなんて判断する余裕もなく自動的に愛おしい特別としてそこにあった。
わたしは多分傷つけられている。
と何処かでわかっていた。
だから何なんだ。という話であるが。
傷つけられたから、だから、じゃあ、その先に何があるってわけではないのに、わたしも人を傷つけていいんだ。あなたみたいな愛し方とも言えない、その場しのぎの安心の乞い方を寂しさの薄め方をしていいのだ。
と無性に真似したくなった。
真似したらあなたの気持ちがわかるんじゃないか。と思った。
事実わかってしまった。
わたしの誕生日をあなたが覚えない気持ちの正体が痛いほどわかってしまった。
気持ちのいいものではないな。と思った。
真面目に、誠実に。なんてことではなく。
人を傷つけて楽しいことなんて本当に一つもないのである。
四六時中終わらないタスクのように眠る前に、朝起きた時に、あぁ、この人のこと好きでいるべき自分を作らないとと思うなんて健やかな心ではない。
だからもう人に恋をしていると思いたいが故の恋はやめるべきだと思った。
眠る前に話してくれたどうでもいい話をわたしはぼんやり思い出している。
子守唄みたいに、内容なんてない。
どうでもいい話を。
今でも思い出している。
<FINLANDS 塩入冬湖>
◆オリジナル・フルアルバム『HAS』
2025年2月12日発売
<収録曲>
01.ララバイ
02.わたしたちのエチュード
03.東京エレキテル
04.ナイトシンク
05.割れないハート
06.VS
07.ピース
08.like like
09.シルエット
10.キスより遠く
11.CLASSIC
12.HAS