岡村靖幸に2週間振り回されたい。

 2022年4月13日に“FINLANDS”が新曲「ピース」を配信リリースしました。約1年ぶりのリリースとなる新曲は、TBSドラマ『村井の恋』のOP曲です。ドラマ原作漫画の作者・島 順太がFINLANDSの大ファンであり、オープニングテーマの担当を熱望したことから起用が実現。塩入冬湖(Vo)がはじめて“ド直球”を描いた、ストレートな恋心を歌詞に乗せた強い意志の感じられる、FINLANDSの新境地ともいえる1曲となっております。
 
 さて、今日のうたコラムでは、そんな最新作を放った“FINLANDS”の塩入冬湖(Vo)による歌詞エッセイを3週連続でお届け!今回が最終回。綴っていただいたのは、2018年にリリースした楽曲「PET」にまつわるお話です。常々、「岡村靖幸に2週間振り回されたい」と言い続けてきたという彼女。その根本にある想いとは…。ぜひ改めて、「PET」の歌詞を味わいながら、エッセイをお楽しみください。



私は常々、「岡村靖幸に2週間振り回されたい」と言い続けてきた。
突発的な衝動や理解の範疇外にある行為、行動に右往左往したい。
こんな事を思う度に勝手なイメージでごめんなさい岡村靖幸様。とも思っています。
 
「カルアミルク」を初めて聴いた時、仲直りを持ちかけるが自分から会いには行かない。
「六本木においでよ。」と歌う男性に一瞬で心を奪われた。
私の聴いて育ってきた音楽の中では大体男が好きな女に会いに行こうとするし、今から会いに行く。と言う。
でも岡村靖幸は違った。
その違和感が妙にしっくり心に落ちてきて、自分の好きな男像を映し出したような気がした。
 
それまでも、「あの人は誠実で真面目で優しい人よ」
といった褒め言葉にそれの何が魅力的なんだろうか。と思う事がしばしばあった。
 
高校生の時は兎に角足が速い人が好きだった。喋った事もなかったし、
全く優しさを感じる局面はなかったけれど、校内ストーキングを続け部活で走る姿を見るとそれだけで愛おしくなった。
 
高校を卒業した後は叫び方が格好いい人を好きになった。
叫んだ後の所作が俺は叫んでやった。
という如何にも悦に満ちた顔をする男が嫌いで、その中でとびきりこんなに叫び方が好きな男はいない。
そう思った。
 
そうだ、思い返してみれば優しさや誠実さ、忠実さが全面に押し出された売り文句に心が解けた事って無い。
 
私にどれだけ約束をくれようが、毎日を真面目に努めていようが、溢れんばかりの愛情を与えてくれようが、
私は誰かに違和感を感じていたい。
アンバランスな違和感を。
 
その人の娯楽になりたい。と思うし、それ以上に私の娯楽であってほしい。
あなたが私の未来であってほしいけれど、未来でも安心や安定なんて言わないで出来るだけ娯楽でいてほしい。
私も娯楽でいさせてほしい。
 
岡村靖幸に2週間振り回されたい。
痛々しいと思いながらも今現在この歳までそれが根底にあるんだ。
面白くいられたらいいじゃない。
無茶苦茶なあなたに一生振り回されたい。
死ぬその時までアンバランスな勝ち負けない娯楽であって。
たまに飽きてしまった時も、嫌になった時も
どうせ訳の分からない主義主張に笑ってしまうからその時はまた一から振り回してくれ。
と思う。
兎に角面白い。と無茶苦茶さに興味を持ち続けていたい。

PET」を描いた頃はずっとそう願っていた。
今でもどこかそう思う節はあるけれど、無茶苦茶さだけではない安らかな愛おしさも知った。
日々人は変化していくのだろうと思える変化である。
だけれど私の初恋は玉置浩二さんだ。
根本はきっと変わらないのではないだろうか。
 
近頃「PET」を聴き返してそんな事を思った。

<塩入冬湖>



◆紹介曲「PET
作詞:塩入冬湖
作曲:塩入冬湖