わたしはキスよりもっと遠くにあるものが欲しいと思っている。

 2022年11月19日に“FINLANDS”が新曲「キスより遠く」を配信リリースしました。10月19日にリリースされた「like like」に続く、第2弾となる今作は、サビで始まる冒頭から心を持っていかれるはず…! 口癖になってしまうほど聴いてほしい1曲。ドチョッキュウなラヴソング達を携え、新たなステージへと向かうFINLANDSに是非、ご注目を!
 
さて、今日のうたコラムではそんな最新作を放った“FINLANDS”の塩入冬湖による歌詞エッセイを2カ月連続でお届け。今回は第2弾です。綴っていただいたのは、新曲「キスより遠く」にまつわるお話。習慣のキスや、暇つぶしの馴れ合いでは、満たされることのない思い…。みなさんは“キスより遠く”にある「何か」に触れた瞬間はありますか…? 歌詞と併せて、エッセイをお楽しみください。



よく今何時?と聞かれる。
○○時だよ。と答える。
少ししてから時計を見て、え、もうこんな時間!?
と驚く事が多々ある。
 
あの時に今何時?と聞かれて答えたところでわたしは数字に合った長い針と短い針を読んで口に出す。という事しかしておらず、特に頭で時間を理解したわけではない。自分が知りたいと思った時にだけきちんと「時間」というものを知る。
 
似たような事が日々には多々ある。
文字を読んだだけで、心から理解に及んでいない事なんてそれはそれは膨大にある。
恋愛においてもそんな事が多かった気がする。
 
関係上当たり前にそこにあるからする習慣のキスや、暇つぶしの触れ合い、挨拶みたいな愛しているよ、間に合わせの相槌。
 
それは心の中に突然発生したたまらない言葉を口に出した結果でも、抑えきれない願望の果ての行為なんかでもない。
 
それは酷く悲しい事なんじゃないか。
と思った。
そして、わたしも同じく残酷な事を今迄何の気なしにしてきたのではないだろうか。
 
わたしは昨年結婚をした。
結婚した後には、「歌う歌、変わるんじゃない?」と多く聞かれたし、わたし自身も変わるのかもなぁ。楽しみだわぁ。特に恋愛編は終わっちゃうのか?新しいフェーズだとかなんとか?なんてドキドキと考えたりしていた。
 
が、現在わたしは毎日夫に失恋しているような気持ちで過ごしている。驚く程に毎日片思いのようだ。
 
全く知りやしないのに爆発的な好意を持ち、大発明のような感情に苛まれはじめた時からずっと変わらない。
結婚しようと変わらない。
え、結婚しても変わらないの?とそりゃあ自身も驚いている。
この世には気持ちの熱量を測って見せてくれる機械なんてありはしないし、心の中にある本来の心を色付けずそのまま知り得る超能力も持ち合わせていないから解らないのだ。
 
当たり前にある関係に沿った好意を表す言葉を朝昼晩と口に出したところでそういう事ではないのか。と思い知った。
そんな処方箋みたいな使い方じゃ身体は慣れていく一方で効き目は無くなるばかりだ。
 
触れ合いや言葉の交換では無い、もっとそのずっと先にある、一瞬だけ垣間見れるような好意の満足がこの世には確かに存在する。
その確かめ方が悲しみを駆使ししないといけないようなものであっても。
その満足は確かにある。
だから毎日その満足や、愛情の理解を手に入れたいと思い続けている。今ある愛情の手入れも怠らずに。
その為にはわたし自身もアップデートされていかないといけないし、求めるだけではいけないと、知っている。
Yahoo!知恵袋で得た有難いアドバイスや、小説で読んだストーリーをなぞってみたり、人に聞いた話を咀嚼しては答えを導きだし攻略方を知るべく努めていかなければ。と毎日のように戦略方法を探しては実践しようとする。
忘れてしまう事もしばしば。
結構、週3で忘れてしまうが。
 
だけれども、そんな事忘れてしまった時にふと、訪れる愛情を理解できる瞬間がある。
え、今!?という時に。 
本当に一瞬だけ。
 
その瞬間を毎日探し求めては大体を失敗に終えているのだ。
 
だから、恋愛編が終わるわけがない。
塩入冬湖 恋愛編は終われなかった。
残念ながら。
この戦は終わりそうに無い。
そうなると恋愛編は終えられない。
なんだか少し安心もした。
世界平和や、海や山の美しさ、社会問題なんかを歌えそうに無いし、歌いたくも無いと思っていたので丁度いい。
 
わたしはキスよりもっと遠くにあるものが欲しいと思っている。

<FINLANDS・塩入冬湖>


◆紹介曲「キスより遠く
作詞:塩入冬湖
作曲:塩入冬湖