わたしが生きている理由はあなただ。

 2025年2月12日に“FINLANDS”が約4年ぶりとなるオリジナル・フルアルバム『HAS』をリリースしました。コロナ禍の時期も絶えること無くライブ活動を継続し、精力的にデジタルリリースを重ねてきたFINLANDS。今作には、この4年の間に遂げた、さらなる成長の姿を余すことなく詰め込んだ全12曲が収録されております。
 
 さて、今日のうたではそんな“FINLANDS”の塩入冬湖による歌詞エッセイを3週連続でお届け。今回が最終回。綴っていただいたのは、収録曲「HAS」にまつわるお話です。自身が今まで得て持ってきたものから生まれたアイデンティティとは。そして、音楽を作ることが出来るその理由とは…。ぜひ歌詞と併せて、エッセイを受け取ってください。



いつか別れる日が来るのだと思う。
人は。
人の死も見てきたし、どれだけずっと一緒にいた人もぱったり会わなくなれば会おうともせず生活の中からその人だけがさっぱりと消えていく。
そうして、人はしっかり「別れ」というものを寂しくても寂しくなくても経験するんだと思う。
 
わたしは未来が想像出来ない。
FINLANDSの展望を聞かれた時も明確に答えられたことがなく、インタビューの最後の質問にありがちなこの問いにいつものらりくらりと、「健康にツアーをまわり切りたいですね!」なんて言葉しか出てこない。中学生でももっと気の利いた言葉を出せそうなものだ。
 
これは昔からそうなんだと思う。
だけど、夫との日々ではよく、50歳になったら、80歳になったら、100歳になったら、もしもこの先研究が進んで150歳まで生きられるようになったら、なんて話をよくする。
ただ、もしも話の範疇であり、何歳でどうのこうのというライフプランというもの(保険のチラシで読みました)はない。
 
死ぬ時は一緒に死にたい。と本気で口にする。
あなたがいない世界に価値はないと本気で思うからだ。
だって87歳まで生きるとして、あとお花見が出来るのは53回、閏年に今年2月少な。と言えるのは21回くらい。オリンピックを見る事ができるのだって21回くらい。お誕生日をお祝いできる事だってあと53回くらい。
一緒に眠れる日だって最大で19345日くらい。
 
いつもそんな事を考える。
じんわりと寂しくなる。
夫はそんな長生きできないよ。
と、論点のずれた答えをさっぱりと出して終える。ばっさりとしている。
わたしは気にせず続ける。
きっと夫は聴いていない。
 
でもその度に毎回それでも最後死ぬ時、いつなのかはわからないけれど、その時わたしの身体は頭は今以上にあなたで構築されたわたしになっているのだろうな。と思う。
わたしの今まで持ってきたもの、あなたが今まで持ってきたもの、これから別々に得ていくもの、思い、これから同じ時間で得ていくもの、知っていくもので互いを満たし合えたらなんて愛おしい事なんだろうと思う。
 
あなたはわたしのために生きているわけじゃない、わたしもあなたのために生きているわけじゃない、だけど、わたしが生きている理由はあなただ。
あなたを喜ばせる仕組みくらい忘れないままいつか体と心をしっかり満タンにあなたで満たして命を終えたい。
そう思っていつも心を取り戻している。
 
思いを伝える。それがわたしが今まで得て持ってきたものから生まれたアイデンティティなのだと思う。
 
音楽を作ること以上に楽しいことはない。
だが、わたしが音楽を作ることが出来るのは叶っても叶わなくても人を最大の心で思うことが出来るからだ。
 
 
<FINLANDS・塩入冬湖>



◆紹介曲「HAS
作詞:塩入冬湖
作曲:塩入冬湖

◆オリジナル・フルアルバム『HAS』
2025年2月12日発売
 
<収録曲>
01.ララバイ
02.わたしたちのエチュード
03.東京エレキテル 
04.ナイトシンク 
05.割れないハート
06.VS
07.ピース 
08.like like 
09.シルエット
10.キスより遠く
11.CLASSIC
12.HAS