大切なひとりごと。

 2023年2月5日、様々なアーティストへの楽曲提供でも知られる温詞(あつし)のソロプロジェクト“センチミリメンタル”の新曲「ひとりごと」が配信スタート!今作はドラマ『ひともんちゃくなら喜んで!』の主題歌として書き下ろした楽曲となっております。
 
 さて、今日のうたコラムではそんな最新作を放った“センチミリメンタル”の温詞による歌詞エッセイをお届け!今回はその第1弾。綴っていただいたのは、新曲「ひとりごと」にまつわるお話です。主題歌を担当するドラマのタイトルに改めて注目したとき、思い出した出来事。彼にとって、歌とはどんな存在のものなのでしょうか…。ぜひ、歌詞と併せてエッセイをお楽しみください。



初めて、ドラマの主題歌を担当することになった。
それは『ひともんちゃくなら喜んで!』という漫画作品が原作のドラマ。
 
人事コンサル会社「オフホワイト」女性社員の“人見まもる”が、ブラック企業と名高いアパレルメーカー「ジェットブラック」社長の“佐京紫織”と、協力しながら「ジェットブラック」を改善していく。そして、その過程で深まっていく2人の恋模様も描く…といった内容のラブコメ作品である。
 
センチミリメンタルは今まで「生と死」や「別れ」などといった、ラブコメ作品とはほど遠い世界観の楽曲を多く歌ってきていたため、果たして僕の音楽で主題歌が務まるのだろうかと少し心配だったが、原作を読み、改めて『ひともんちゃくなら喜んで!』というタイトルに目を向けたとき、ふと思い出す出来事があった。
 
以前、友人が結婚をすると報告してくれた時に、「今までの恋人の中で1番喧嘩が多い相手だから、結婚したいと思った」と彼は言っていた。僕は喧嘩が苦手で、割と本音を飲み込んで中立を図るタイプだったので、その言葉は意外な物だった。
 
「どうして喧嘩が多くて、それで結婚したいと思ったの?」と訊いてみると、彼は、「今までは何かすれ違いがあっても、まぁいいやってうやむやで済ませて来ちゃったんだけど、初めてちゃんと相手の発言や考えに対して、真剣に自分の思ったことを伝えたい、そう思える人に出会ったんだよね」と少し照れくさそうに笑っていた。
 
その言葉に、ハッとした。
 
僕には声に出して言葉にできなかったことがたくさんある。それは良い言葉も、そうではない言葉も、どちらも。飲み込むことに、自分の中だけで溜めてしまうことに慣れてしまっていて、誰かとぶつかったり、恥ずかしいことや言いづらいことも本音で語ることを避けてきてしまったな、と。
 
でも、だからこそ。
だからこそ僕は歌を作ってきたのだ。
言えずに飲み込んできたことを、全部歌にして生きてきたのだ、と改めて気付きをもらった。
 
歌は僕にとっての、独り言だ。
ちゃんと言えずに心の中だけでこだましていた独り言を、遠回りでも届けることのできる魔法みたいな存在だ。
 
そうして書き上げたのが「ひとりごと」という一曲だった。
普段口にするには気恥ずかしい言葉が並んでいる。
 
きっとあなたにも、言おう言おうと思っていてもなかなか言えないままの気持ちが胸の奥にあると思う。そして、その言葉を待っている誰かがいるはず。だから人はそれを歌にしたり、はたまたそれを自分に重ねて聴いたりするのだと思う。
 
この「ひとりごと」という楽曲が、あなたや、あなたが大切に想う誰かにとっての“大切なひとりごと”になると嬉しい。

<センチミリメンタル・温詞>