2023年10月18日に“Sano ibuki”が3rd Mini Album『革命を覚えた日』をリリース! 昨秋リリースしたMini Album『ZERO』以来、約1年ぶりとなる新作。3月「眠れない夜に」、6月「下戸苦情」、そして8月に発表した「少年讃歌」の新曲3曲をはじめ、MBSほかドラマシャワー『ワンルームエンジェル』エンディング主題歌として書き下ろした「久遠」を含む全6曲を収録したアルバムとなっております。
さて、今日のうたコラムではそんな“Sano ibuki”による歌詞エッセイを3週連続でお届け! 今回が最終回です。視力が落ちて朧げな世界。それでもSano ibukiが眼鏡をとって世界を見つめるその理由は…。ぜひ今作と併せて、エッセイをお楽しみください。
眼鏡をとって、世界を見つめている。
それは僕にとっては自然なことで、朧げな世界が当たり前だ。かすんでいて、水彩絵の具が滲んだような、その世界はあまりにも綺麗に見える時があります。
汚いものなんて、一つもないような、気持ちになる時があります。でもそれって汚いものに蓋をしているだけで、何も見ていないだけですよね? と言われればその通りで、ぐうの音も出ないのです。
なのに何故、それを続けるのか。
これが僕の逃避行のやり方なんだと気づいたのはここ最近のことでした。
視力が落ちたのは小学四年生の頃でした。
僕は普段からテレビゲームに齧り付いて、図書館で本の虫となって、薄暗い部屋で夜な夜な誰にも見せない物語を作っていたので、視力が落ちるのは時間の問題だったと思います。何より、クラスメイトがこれみよがしに眼鏡をかけている姿を羨ましくも思っていたので、初めて黒板が霞んで見えなくなった時、これで遂に眼鏡を買ってもらえる、とうきうきしたものでした。
今思えば、なんて馬鹿だったのかと頭を抱えてしまいます。
一度視力が落ちてしまえば、後は早いものでたった一年で眼鏡をかけないと日常生活が難しいところにまでなっていました。この頃、僕はクラスメイトから除け者にされていました。詳しくは書きませんが、意地悪もされていましたから学校という社会に対して心の底から嫌悪感と“??”感を覚えていました。
だからといって、誰かに助けを求めることはしなかった。それは自分が惨めに感じるとか、恥ずかしいとか、認めたくないとかそんな感じだったと思いますが、とにかく自分が変われば、世界が変わるんじゃないかと信じて止まなかった世界が、実は何も変わることなんてないし、汚れていて、誰かの揚げ足ばかりとる世界なんだと知ってしまったのです。
諦めて、期待しなくなれば、存外一人でいることは簡単なことでした。かといって逃げる場所がなければ、心を保てませんでしたから、そんな自分が逃げたのは視力が落ちた朧げな世界だったのです。
人と話すことも怖くなっていたのに、目の前の肌色の何かが揺れているだけなら会話もできたし、なにより塵やゴミに気づけない僕の視界はあまりにも美しいものしか映さないようになっていました。
そんな世界に慣れきってしまって、そのうち視界が良好な世界が何処かで怖いと感じるようになりました。
コンタクトレンズを付けて、眼鏡を付けて、世界を眺めている時間より、自分一人以外、人間なんて存在していないような世界の方が安心出来るようになっていたのです。これではいけないな…と、外の世界に触れたい。と勇気を振り出した瞬間が、音楽を作り始めた瞬間でした。
視界で繋がることのできなかった誰かとの世界と音で繋がりたい。そんなことを思い、書き殴っていました。
最近、視力がさらに落ち、今では朧げどころか色でしか判断出来なくなってしまって、転ぶことも増えましたが、未だに良好な視界でいる時間より、ぼやけた世界にいることの方が多いです。でもちゃんと、窓にこべりついた水滴の汚れからも、手荒れがひどい手からも、誰かが置いていった缶コーヒーのゴミからも逃げずに見つめることが出来るのです。
現実逃避の先で、現実を受け止めることができるきっかけを貰えることもあると思うのです。
だから僕は逃げることも、正しい姿で美しいと今は思えるのです。逃げてもいいよ。とよく歌うのはそういうことなのです。
<Sano ibuki>
◆3rd Mini Album『革命を覚えた日』
2023年10月18日発売
<収録曲>
<収録曲>
01. 少年讃歌
02. 罰点万歳
03. 下戸苦情
04. menthol
05. 眠れない夜に
06. 久遠
<bounus track>※CDのみ
07. エイトビート