私はそっと扉を閉じた。

あたらよ
私はそっと扉を閉じた。
2024年9月11日に“あたらよ”がニューアルバム『朝露は木漏れ日に溶けて』をリリースしました。リードトラック「明け方の夏」は、もう戻れないあの頃の2人を思い返して歌ったバラードナンバー。さらに、新曲「少年、風薫る」やスマッシュヒット楽曲「僕は...」を含む全8曲が収録されております。 さて、今日のうたではそんな“あたらよ”のひとみによる歌詞エッセイを3週連続でお届け。今回は第2弾です。綴っていただいたのは、収録曲「 明け方の夏 」にまつわるお話です。長く持てば持つほど、愛着が湧いてしまうのに、捨てられない。自身が「壊れたチェキ」までもずっと捨てられない理由は…。 “ほらだから言ったじゃないか 愛着湧いてしまう前に 捨ててしまえばよかった” 私は昔から物が捨てられない。「そんなもの取っておいたってしょうがないのに」と言われるような物でも、いつかどこかで使うかもしれないしなあ。と思って取っておいてしまう。 ところが、私の言う“いつか”なんてものは大抵来ない。 大事にしまっておいた物の大半が再び日の目を浴びることなどないまま、収納棚の奥に眠っている。それらもいつかは捨てなきゃと思うのだけれど、取っておいた年月が長ければ長いほど愛着が湧いてしまってなんだか捨てづらい。 捨てられないものリストの中でも特に「もうこれは流石にいらないだろ」と思う物がある。壊れたチェキだ。場所は取るのに、写真は撮れないただの四角い置物と化している。 それなのにどうしても捨てられない。持っていたってしょうがないことぐらい頭では理解している。どちらかと言うと、折り合いがついていないのは心の方だ。そのチェキは色んな場所に持っていったし、大切なお出かけの時はいつもそばにあった。だからなのか、撮影して手元に出てきた写真の方ではなく、チェキの方に思い出が詰まっているような気がしてしまうのだ。 長く一緒に過ごせば過ごすほど情や愛着が湧いて手放せなくなる。 手放した方が楽になれると分かっているのに。 しかしだ、捨ててしまうのは可哀想だ、なんて捨てられた側の気持ちをこちらが一方的に決めつけるのはあまりにも傲慢なんじゃないか。 そう思ったらこのチェキも捨ててしまえる気がした。 収納棚の扉を開ける。それと目が合う。 私はそっと扉を閉じた。 <あたらよ・ひとみ> ◆紹介曲「 明け方の夏 」 作詞:ひとみ 作曲:ひとみ ◆ニューアルバム『朝露は木漏れ日に溶けて』 2024年9月11日発売 <収録曲> 01 「僕は...」 02 明け方の夏 03 リフレイン 04 realize 05 少年、風薫る 06 君と 07 光れ 08 「僕は...」(Piano ver.)